「それで、誤解も解かずに帰って来たってか」
莫迦だな、やっぱり。
容赦無い台詞と冷笑で、いっそ気持ち良いくらいに一刀両断されて、後悔に落ち込んでいた気持ちが更に深く沈んだ。
「俺は相談に来たんすけど……阿近さん……」
「莫迦に付ける薬は置いて無ぇな」
酷ぇ…………
消沈する俺なんて何のその。
忙しいんだから他当たれと、一瞥もくれずに鬼はデータベースを睨んだままだ。
「やっと、好きだっつってくれたのに……」
口に出せば一層蘇る昨夜の失態と後悔の念。
紗也の、歪んでいった顔が忘れられない……
傷付けた
そう思ったら。
初めて見せてくれた、紗也の気持ちを踏みにじった俺が、今更何を言ったって無駄なんじゃねぇかって、何を言っても信じて貰えねぇんじゃねぇかって。
ごめん、ごめんなさいと繰り返した紗也。
一生懸命笑おうとするのに掛ける言葉も見付けられないまま、俺はただ呆然と名前を呼んだだけだ。
ずっと好きだった。これは嘘でも冗談でも無ぇ。
絶対に手放したくなくて、他の誰かにくれてやる気もなくて、副隊長っていう権限を目一杯乱用して傍に置いて来た。
紗也を好きだと思う前の、自分を消したいと思うくらい。
俺をそう言う意味で選んでくれない紗也の、一番近くに居られるように。
たった一人に成れない俺が長い時間を掛けてやっと手に入れられたのは、近くて一番、遠い場所。
諦める気が無ぇなら、例え振られたって、真っ正面から受け入れて、また頑張れば良かったじゃねぇか……
「で、お前は紗也の顔も見たくねぇって避けてるってか」
「避けてなんか!」
「いねぇって言えんのか?」
忙しい執務放って、三席一人にして、避けてねぇって言えんのか。
……刹那
紗也の、悲しそうな顔が浮かんだ。
昨夜の今日で、
朝から落ち着きはねぇ
顔もまともに見られねぇ
執務には戻らねぇ
俺はまた、何をやってるんだ。
「だから、ヘタレだっつうんだ」
鬼の一撃は、邪魔した詫びもそこそこに飛び出した俺の耳に届くことは無いままだった――…
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