いつもより浮かれた自分
いつもより優しい修兵
だから私は、忘れていたんだ……
修兵は、昔からとにかくよくモテた。
霊術院の筆頭だった頃から、修兵の隣には必ずと言っていいほど綺麗な女のコが居て。
私はいつも、それは綺麗な一枚の絵のようだと思っていた。
自信に満ち溢れた彼女達に張り合う気なんて更々ない私は、早々に戦線を離脱していて
同じ特進学級の筆頭と次席
そんな小さな関わりだけで満足していた。
見ているだけで十分な恋だった。
三回生の時に隣の席になって、それから何でか一緒に居る時間が増えて、気付けば性別を超えた親友の位置を手にしていた。
まぁ、性別を超越してるのは修兵にとってだけで、私には、もうずっとたった一人の男の人なんだけれど……。
目まぐるしく代わる修兵の隣に立つ彼女達が
その位置を許された彼女達が
羨ましく思わない訳ではなかったけれど……。
私はそれが、長い時間の中の一瞬ならば要らないと、違う場所を望んだ。
修兵に選ばれて、その腕の中でその温もりに触れる事を許された彼女達は幸せなんだろう。
例えそれが、刹那だとしても――――
私は忘れていたんだ。
『ずっと好きだった』
修兵はそう言った。
本当にそうだったなら
修兵が私を好きでいてくれたなら
この長い時間の何処かで、私達が重なる瞬間が在ったはずだってこと。
ずっとずっと傍に居て
一度だって修兵が私を見てくれた事なんて無かったじゃないか。
いつだって私は対象外で、無条件に触れる事を許された、あの人達とは違うんだって、解っていたはずなのに……。
浮かれていた自分に腹が立ってくる。
いつもの自分なら、修兵の冗談を真に受けたりしない。
このどうしようもなく甘く感じた空気を、都合良く勘違いする事も無かったはずなのに……
「ごめん……」
「紗也…」
「修兵は‘ずっと’って言ったのに……そんな訳ないって、ちゃんと知ってたのに……」
いつだって、修兵の隣には大事な人が居たのにね……
修兵が目を見開いて、辛そうに顔を歪めたのを見て、そんな顔をさせてしまった事に歯噛みした。
女とも思われてなかった自分から、今更ずっと好きだったなんて言われた修兵の事を思えば、申し訳なくて目の奥が痺れるように熱くなった。
泣くな
泣いたら、修兵が困る。
だから
泣くな――…
これ以上、修兵に嫌な思いはさせたくなかった。
「か、える ね」
今日は此処までで良いよ
俯いたまま、気持ちを落ち着けて、瞬き一つで感情を掻き消して、いつものように私は笑う。
送りたい、そう言った修兵には苦笑いを返した。
「……ありがとう」
でも、今日だけは見逃して?
明日には忘れるから。
もう二度と嫌な思いはさせないから。
「修兵が嫌なら、異隊させても良いからさ」
「っ!何、莫迦なこと!」
「ごめん、ね」
修兵の返事も待たずに背を向けた。
今は少しだけ、一人にして欲しかった。
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