修兵短編 壱 | ナノ


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「四宮、この書類じゃけぇの」

「すみません、射場副隊長。書類配達はちょっと……」

「…………漸く、諦めるんか」

「違います!書類配達の度にアレじゃあ…。向こうの三席から苦情が来たんです」


諦めないと言った修兵は、私が書類配達に出るのが面白くないらしく……

何処から聴き付けて来るのか、毎回、何でか付いて回られる羽目になる。

あれじゃあ、苦情も言いたくなるだろう。

だったら私が折れるしかない訳で……。


「そ、それから……」

「おお。今日は食堂デーじゃったけぇの」

「その言い方は止めて下さいっ」


そして修兵は、週に二回は一緒に昼食を摂ると言って譲らない。

忙しいから止めた方がいいって言ってるのに!
三席さん達から文句の嵐なのに!


「ほいで、何でその大荷物になっとんじゃ」

「これは……」


食堂への移動距離と待ち時間とか、その他、色々な面を考慮した場合、修兵の副官室で食べさせてさっさと業務に戻すのが一番効率が良いかと思って……。


「………お弁当、です。行って来ます!」


ああもう、何で私がこんなに居たたまれない思いをしてるんだ。

全部、修兵のせいだ。


「言葉の割に、嬉しそうで良いことだな」

「ですかねぇ」

「聴こえてますっ!」



心配を掛けてしまって居たらしい隊長と副隊長には内心で詫びて、これ以上弄られたら堪らないとばかりに隊舎を飛び出した。

向かう先は――…







「今日は絶対に副官室で待っていて」


と紗也が言った。

食堂に行くならいつものように迎えに行くと言ったのに、少しでも仕事しててと怒られた。


「何で今日に限って…」


そろそろだなと霊圧を辿れば、少しずつ近付いて来る柔らかい霊圧に顔が緩んで、三席の野郎に咳払いをされた。

一緒に食事をするって言うのは俺の我が儘以外の何物でもない。

少しでも時間を作ろうとする俺に、無理はしないで、休んでと紗也は言う。

お前は、あの恐怖を知らねぇから。

失くしてしまったと思い知った時の恐怖、あの血の気が退くような想いは二度と味わいたくねぇ。

その為の無理なら、どんな事だって些末な事だと今なら言える。

書類配達に至っては、言語道断だな。
有り得ねぇ。


一人で出すとか絶対ぇ無理。


コンコンコンコンと、軽いノックの後に顔を覗かせた紗也に笑顔を向ける。

出てけよと、三席に視線で促せば、溜め息を吐いて副官室から出て行った。

溜め息が余計だっつの。

ちゃんと仕事してた?と眉間に皺を寄せる紗也に苦笑いして、行くかと促せば、あ――…とか言って視線を揺らした。


「紗也…?」


途端に、朝の態度とか揺れた瞳とかが引っ掛かって、霊圧が上がって行く俺に


「ち、違うから!みんな倒れちゃうから」


ちょっと抑えてと紗也が慌てて手を取った。

それだけで――…


「今日は、その…、お弁当を作って来たから、ここで一緒に食べ……キャアッ」


ちょっと待って、違う!
仕事の効率を……って、聴いてる!?

ジタバタと暴れる紗也なんてお構い無しに抱き締めた。


もう無理かと思っていた。

諦めるつもりなんか更々無かったけれど……。

それでも、怖ぇことには変わりなくて。
焦れて、焦がれて、何度抱いてしまいたいと思ったか……


「凄ぇ嬉しい……」

「……修兵」

「紗也が好きだ」


もう絶対に、大事なものを間違わない――…



返される言葉は未だ無いけれど、抱き締めれば返ってくる

その温もりが


愛しい――…





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