いつも抱き締めると、嬉しそうにギュッと抱き付いて来てくれた。
名前を呼ぶと微笑んでくれた。
俺はそれが気に入っていたんだって、泣きたい程に幸せだったんだと悔やんでも、返される温もりは戻っては来ないのに…。
「何か、聴いた?」
優しい声音だった。
ビクリと震えた俺に、
そろそろかなって、思ってた……そう言って、腕の中の紗也が微笑った気がした。
「こうして、来てくれてありがとう。修兵が… 一番良いようにするから。振った方が良いのか、そうじゃないのか…」
「紗也ごめん。ちゃんと話がしてぇんだ」
「修兵は悪くないから。謝らなくて、いい…。あの日も、ほんの少しだけでも一緒に居られたら良いと思っただけ…。乱菊さんの誘いを断れない修兵が、私との約束も同じように大切に想ってくれたらいいのに…って、思っただけ……」
私が面倒くさい奴なだけだから…と哀しそうに笑う。
「紗也…」
「修兵。修兵の一番良いようにしてくれて構わないから、だから……」
私を解放して
覚悟はしていた。
会えば、紗也から告げられるだろう言葉に。
血の気が退いた――…
「紗也っ!俺はっ」
抱き締めていた腕を解いて顔を合わせた紗也は、驚くほど穏やかに笑っていて、肩を掴んだ腕からズルリと力が抜けて行く…。
「好きなんだ……」
「……うん」
私も、修兵が好き。
「だったら……」
「……愛されてないよねって言われて、そうだなって思った。そう思ったらもう、ダメなのかなって思う」
傍に居てって言えない私に
一緒に居たいと思っても貰えない私に
修兵の隣に立ち続ける強さはもうないの
するりと脱け出そうとする紗也を縋るように抱き締めた。
抵抗らしい抵抗の無い紗也をその場に組み敷いて、何度も何度も唇を重ねる。
このまま紗也を失う現実が怖くて、腹の奥底から競り上がってくるものに歯を喰い縛って耐えながら、只もう狂ったように
抱いた――…
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