修兵短編 壱 | ナノ


08

いつも抱き締めると、嬉しそうにギュッと抱き付いて来てくれた。
名前を呼ぶと微笑んでくれた。

俺はそれが気に入っていたんだって、泣きたい程に幸せだったんだと悔やんでも、返される温もりは戻っては来ないのに…。


「何か、聴いた?」


優しい声音だった。
ビクリと震えた俺に、



そろそろかなって、思ってた……



そう言って、腕の中の紗也が微笑った気がした。


「こうして、来てくれてありがとう。修兵が… 一番良いようにするから。振った方が良いのか、そうじゃないのか…」

「紗也ごめん。ちゃんと話がしてぇんだ」

「修兵は悪くないから。謝らなくて、いい…。あの日も、ほんの少しだけでも一緒に居られたら良いと思っただけ…。乱菊さんの誘いを断れない修兵が、私との約束も同じように大切に想ってくれたらいいのに…って、思っただけ……」


私が面倒くさい奴なだけだから…と哀しそうに笑う。


「紗也…」

「修兵。修兵の一番良いようにしてくれて構わないから、だから……」


私を解放して


覚悟はしていた。
会えば、紗也から告げられるだろう言葉に。

血の気が退いた――…


「紗也っ!俺はっ」


抱き締めていた腕を解いて顔を合わせた紗也は、驚くほど穏やかに笑っていて、肩を掴んだ腕からズルリと力が抜けて行く…。


「好きなんだ……」

「……うん」


私も、修兵が好き。


「だったら……」

「……愛されてないよねって言われて、そうだなって思った。そう思ったらもう、ダメなのかなって思う」


傍に居てって言えない私に
一緒に居たいと思っても貰えない私に

修兵の隣に立ち続ける強さはもうないの


するりと脱け出そうとする紗也を縋るように抱き締めた。

抵抗らしい抵抗の無い紗也をその場に組み敷いて、何度も何度も唇を重ねる。


このまま紗也を失う現実が怖くて、腹の奥底から競り上がってくるものに歯を喰い縛って耐えながら、只もう狂ったように


抱いた――…





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