修兵短編 壱 | ナノ


07

往生際が悪いと言われようが、とにかく会って話をしたくて、まだ微かにでも紗也がこの腕の中に残っている事を願って、夕闇の中を瞬歩で駆け抜けた。


俺はまだ、紗也から何も聴いてねぇ。
俺もまだ、何も伝えちゃいねぇんだ――…



隊舎からものの数秒
こんなにも近い彼女に、どうして俺は…と、繰り返し沸き上がるのは後悔だけだ。

紗也が不満を言わないのをいいことに、ずっと甘えて来ただけじゃないのか。

忙しいからと、乱菊さんは今大変だからと、自分を正当化して想いを伝えることもせずに……。


ならば紗也は?
そうしておかれた彼女の気持ちを今更に思う。


誕生日の前日
断れないのかと紗也は言った。

紗也が、今までにそんな事を言ったことはなかったと気付いていた。

責めるでもなく
ただ、寂しそうに

それは紗也からの初めての警笛だったのに、その彼女に自分は何と返したのか……

侘びの一つも言った覚えのない自分は、何様のつもりでいたのか。

考えれば考える程、とても大事にしていたとは言えない現状に、今、失くしたくないと必死になっている自分が嘲笑えた。







扉の前に立ち、留守だったらとの考えは無かったのに、部屋に灯りを確認するとほっと息を吐き出した。

中に紗也の柔らかい霊圧を感じて胸の奥が焦れるように熱くなる。


こんなにも、会いたい。

のに、足が動かねぇとかどんだけだよ…。


一秒でも速くと急いてここまで来ておきながら、莫迦みたいに立ち尽くして、目の前の扉を叩く事さえ出来ずにどのくらいそうして居たのか。

俺に気付いて扉を開けてくれた紗也が苦笑いで立って居て


「副隊長とも在ろう人がそんな所で突っ立ってちゃダメだよ」


と、優しく俺の腕を引いた。


触れられた部分が熱を持って痺れるような感覚が躯中に伝わる。
顔を見たら堪らなくなって、俺はその手を掴んで引き寄せると、キツく震える腕の中に閉じ込める。

どんなに強く抱き締めても、紗也の腕が俺に回る事のないまま――…



君を失くすことが、こんなにも怖い――…





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