抱き締めたら、抱き締め返してくれる
好きだと言ったら、好きだと返される
想いが返って来る幸せが
一方通行じゃない想いの先が
俺はいつから、必然だなんて思い込んでいたんだろう……
隊長同士が懇意だった事で、何かと接する機会の多かった七番隊。
当時、八席だった紗也をよく目にするようになったのは、俺が副官に任命された後だ。
立てるところはしっかりと立てるが、上官と云えど物怖じはしない。
可愛らしい見た目を裏切った、さっぱりした性格に惹かれていた。
少しでも接点を増やしたいと、いい加減鬱陶しいと射場さんに文句を言われるくらい通い詰めて。
阿散井達の同期だと知ってからは、渋る阿散井を説き伏せて、飲み会にも連れて来させて。
そうして少しずつ距離を縮めて告白した時には、紗也を好きだと思ってから、一年以上が経っていた。
『私じゃダメです』と恐縮して逃げる紗也を、ダメなら、そんな理由じゃなくて俺自身を理由にしてくれと何度も迫った。
『檜佐木副隊長に、そんなダメな理由なんて有りません』
そう言われたのを質に、最後は強引に自分のものにした。
後悔なんてさせないように、余所見なんてさせねぇように、縛り付けるように傍においた。
指輪は、紗也と付き合って直ぐに誕生日に託つけて渡したものだ。
誕生日だとかそんなのはただの理由付けで、一番近い記念日なら何だって良かった。
そんな理由でもねぇと、遠慮して受け取らねぇだろう紗也に、俺の独占欲を悟らせねぇように、『俺のもの』だって言う鎖を付けたかっただけだ。
執着して。
束縛して。
射場さんに頼み込んで他隊になんて行かせねぇようにして。
そうして俺は、紗也を閉じ込めたと安心でもして居たんだろうか。
いつからか、紗也は言いたい事を言わなくなって…
違う。
言わせてやれなかったんじゃねぇのか。
紗也が否定しねぇから阿散井の言葉が耳に響いて、ぐっと腹の奥から競り上がる。
一番大事な存在を傷付けて、失いそうになってからしか己の愚行に気付けない。
そんな自分に嫌気がさす。
紗也はいつ俺を諦めた?
どうでもいいなら、このまま解放してやってくれ無理だろ。
まだこんなにも痛ぇ…
俺はまだ、間に合うだろうか。
どうか間に合ってくれと執務室を飛び出した。
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