修兵短編 壱 | ナノ


04

「わしに何かゆうことが有るじゃろうが」


……四宮のことで



副官会議後の恒例の酒席で、いつになく神妙な面持ちの射場さんが目の前に腰を下ろした。

持っていた杯を煽り、この場に相応しくない雰囲気を醸し出すのを

何だ…?

と見遣る俺には溜め息をくれて、唐突に問われたのは紗也のこと。


紗也が、何だって?
伝えること…?


まるで思い当たる節の無い俺を見て取ったのか、

「なら、ええ」

とそれ以上は何も言わずに席を移動して行った。


思えば、それが二度目の警笛だったんだろうか…


夜通し呑んだ次の日は、呑み比べで負けたんだからとか何とか言われて、結局少し仮眠しただけで乱菊さんの買物に付き合わされる羽目になった。

元気だな相変わらず、と感心しながら振り回されて、夜は夜で荷物持ちの礼だと飲みに連れられた。

普段よりずっと早くに解放されたものの、疲労と寝不足に耐え切れず、倒れるように布団に入った。
それが昨夜のこと。


射場さんから思いがけず出た紗也の名前に、先日、約束を反故にしたままになっている彼女のことを思い出していた。

伝令神機越しの、いつもと違う様子に自分の非を棚に上げて苛立って、後で行くからと後回しにした。
そうしてそれさえも守られないままに時間だけが過ぎているのが現状だ。

久しぶりに会ってゆっくりしようと取ったはずの非番も寝て過ごしてしまって、非番明けから始まった瀞霊廷通信の編集作業で隊に缶詰めになって。
今日こそはと思いつつ飲みに誘われて、また今回の非番も同じように潰して。

思い返せば、最近の非番はずっと乱菊さんに振り回されっ放しで、結局一本の連絡もしないままだったと二日酔いの頭を押さえた。

忙しいを理由に、もうずっと紗也とはこんな事ばかりだと気付けば、胸の奥がジリッと痛んだ気がして罪悪感が湧く。

とにかく、何にしてもこの書類の山をなんとかしねぇと何も始まらねぇと切り替えて、非番の分も合わせてこれでもかと積まれた書類にうんざりしながら手を付け始めた。

阿散井が飛び込んで来たのはそんな時だった。







「先輩っ!!!」

「……てめ、殺す」


キ――――ンと二日酔いの頭に響いた莫迦デカい紅犬の声に本気で殺意が湧くが、チ、と舌舌打ちしてギロリと視線で続きを促す。

次、莫迦デカい声を出したらマジ殺す……
つーか、下らない話ならシメる。


終わらない書類の苛々も相俟って、俺の苛々は最高潮に達していた。

あ―… と歯切れ悪く視線が定まらねぇ阿散井に無言で睨みを利かせれば、意を決したように口を開いた。





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