その手をつかんで

07.私の幼なじみ


私は、ひょんなきっかけから、同じクラスになったアニ・レオンハートさんと一緒に帰っていた。

隣の席になったライナー・ブラウンくんとは幼なじみで、幼稚園からずっと一緒だという。

「私の後ろの席に座ってた男の子、マルコ・ボットっていうんだけど、マルコと私も幼なじみなの。生まれた時からずっと一緒でお隣さん」

「そう」

「私がこの学校を選んだのはね、マルコがここに行きたいって言ったからなんだ。しょうもないでしょ。でも案外、来るべくしてきたんじゃないかって思うんだよね。先生もかっこいいし、幸先よさそうな感じ」

「へぇ」

私はまごまごと彼女を窺った。

「ごめん。なんか私ばっかり喋ってるね」

「いいよ、別に。もしかして、緊張してるの?」

私は咄嗟に否定しようとして、口を噤む。

しまったと思った時にはもう手遅れだった。



そう、私は緊張していた。

彼女が、その澄んだ瞳をこちらに向ける度、ヒヤリとするのだ。

覆い隠したいものがあるのに、全て丸裸にされてしまう。

そんな後ろめたい不安が私を襲う。

おかしいな。

私、そんなに人見知りしないし、先入観を持たないで人と接することができるタイプだと思ってたのに。

環境が変わって、少しナイーブになっているのだろうか。



「ええと…少し。ごめん。気ぃ悪くした?」

彼女は肩を竦めた。

「大体そうだから」

素っ気なく返す。

「感じ悪いとか、愛想がないとか、よく言われるよ」

私は大慌てて首を振った。

「違うよ!そうじゃなくて」

「いいよ、気にしてないから」

「目がさ、綺麗だから」

彼女は驚いたのか、その大きな青い目を見開いた。

「何でも見透かされちゃいそうで、ちょっと居心地悪いんだ」

それを聞いた途端、呆れた表情に変わる。

「それ、フォローなの?」

問い掛けられて、私はアッと口に手を当てた。

「…フォローに、なってないかも。ごめん…」

「いいけど」

「…怒った?」

私のほうが背が高いのに、上目遣いになる。

彼女は小さく笑った。

「怒ってないよ」

「よかった」

私も安堵の笑みを漏らした。

「ねぇ、レオンハートさんは」

「アニでいいよ」

「えっと、アニは、どうしてローゼ高校に来たの?やっぱりブラウンくんがいるから?」

アニは露骨に嫌そうな顔をする。

「違う。あんたと一緒にしないで。なんとなくだよ」

「なんとなく…なら、私と一緒だよ」

「そういう意味ではね」

私はへへ、と笑う。

「ねえねえ、ブラウンくんってどんな人?」

「雑」

「雑!」

「それから極度のお人好し」

「優しいんだ」

「厄介事に首を突っ込むのが好きなんだよ」

「面倒見がいいんだね」

「そのくせ、変なところで弱い」

「うん」

アニが勢いよく私に目を合わせた。

私は驚いて瞬きする。

そして、自分の返答がおかしいことに気付いた。

「うん…?知らないけど。そうなんだ、意外。どっしり構えてて安定してそうなのに」

アニはしばらく私を見つめていたが、やがてため息をついて視線を逸らした。

「自分ではそう思ってる」

「アニしか気づいてないんだ。よく見てるんだね、ブラウンくんのこと。二人は付き合ってるの?」

「まさか。あんたたちこそ、どうなの」

「私とマルコ?付き合ってないよ」

「そう」

「でも、マルコとだったら将来結婚してもいいかな。これ、ちっちゃい頃からずっと言ってるんだけどね」

私は笑った。

アニはチラリと私を見て、前に向き直る。

遠くを見つめるように、目を細めた。

「もう一人、隣のクラスに幼なじみがいるんだ」

「へぇ、そうなんだ。なんて子?」

アニは立ち止まった。

私は不思議に思いながらつられて立ち止まる。

アニの奥深い青が私を捉えた。

ギクリ、と私は身構える。

アニの唇の動きが、やけにゆっくり映った。

「ベルトルト・フーバー」





(20131207)


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