その手をつかんで

06.手を取り合う


教室を出て行くルーラとアニの背中を見送って、ジャンはマルコに低く問う。

「よかったのか?珍しいな、あいつがお前と別行動取りたがるなんて」

「何か感じるところがあるのかもしれない。ルーラの好きなようにするのがいいさ」

「まあ、そうだな…」

「なあ」

ライナーが二人を振り返った。

「もう一人、いいか?隣のクラスのやつ。そいつも幼なじみなんだ」

二人は顔を見合わせて頷く。

三人は教室を後にした。



廊下に出ると、そこは帰ろうとする人やたむろする集団でごった返していた。

そんな中で、ひと際目を引く男子生徒に、ライナーは声をかける。

「ベルトルト!」

群を抜いて背の高いその少年は、声のした方を振り返ると、ピタリと動きを止めた。

その顔はみるみるうちに緊張で強張っていく。

ライナーに返事をしたのはその少年ではなく、側にいた坊主頭の少年だった。

「ライナー!…ジャン!?マルコ!?」

ジャンとマルコは目を見開いた。

駆け寄ってきた生徒たちを信じられない思いで見つめる。

側にやってきたのは四人。

どの生徒も初対面だ。

だが、どの生徒にも見覚えがあった。

ジャンは半信半疑で坊主頭の少年の名を呼ぶ。

「コニー…か?」

コニーと呼ばれた少年はピクリと反応する。

「ジャン、なんだな!?マルコは!?」

マルコは微笑んで頷く。

コニーの顔が明るくなった。

「なんだ?知り合いか?にしても、珍しいな、ベルトルト。お前が初日からこんなに友達作るなんてよ」

ライナーが意外そうに笑う。

周囲は小さく息を飲んだ。

「あ、ああ…。今日、話しかけてきてくれたんだ。彼はコニー・スプリンガー。それから…」

「サシャ・ブラウスです。よろしく、ライナー」

赤みがかった茶髪をポニーテールに結った、活発そうな少女が手を差し出す。

「ああ。俺の名前…」

「さっきベルトルトから聞きました。幼なじみだそうですね」

「僕はアルミン・アルレルト。よろしくね、ライナー」

金髪のショートボブに穏やかそうな青い瞳、柔和な顔立ちの少年だ。

ライナーはそれぞれと握手を交わした。

「アニは帰ったの?」

ベルトルトはキョロキョロと周囲を見渡す。

「ああ。こいつらの幼なじみと一緒にな」

ライナーはマルコとジャンを差した。

「幼なじみ?」

「…ルーラ・クローゼっていうんだ」

マルコが答える。

ベルトルトの表情が一瞬にして青ざめていった。

ライナーはベルトルトの様子が一変したのに驚き、狼狽える。

「お、おい、ベルトルト?」

他のメンバーはそっと彼を見守っている。



ルーラとベルトルトの間には、深い深い因縁が存在していた。

それは、こうして時を越えて再び出会った彼らよりも一層、深いものであった。

二人は強く結び付き、そして最悪の形で引き離された。

この上なく幸福で、この上なく不幸な記憶であった。

ベルトルトは激しい悔恨の念と大きな負い目を胸に秘めながら、今まで生きてきた。

彼の表情を目の当たりにして、ライナーを除いた全員が、それを悟ったのであった。



ベルトルトは俯いたままどこか一点を見つめている。

「お前、具合でも悪いのか?」

「いや…大丈夫。なんともないよ」

「そうか。ならいいんだが…」

「よお、お前ら」

ジャンがこの雰囲気を断ち切るように、アルミンたちに声をかける。

「お前らも、来いよ。これからデニーズ寄ってこうって話してんだ。用事、あるか?」

「お、いいな!行こうぜ!」

「私も行きますっ!お腹空いてたとこだったんです!」

コニーとサシャは二つ返事で賛成する。

「アルミンはどうだ?」

「僕も行きたいな。待って、エレンとミカサに声かけてくるよ」

ジャンはあからさまな反応を見せた。

もちろんミカサに、だ。

マルコはクスクスと笑って、ふと真顔に戻る。

「ええと…二人は…?」

アルミンはゆるゆると首を横に振った。

ジャンは落胆と安堵が混ざったようなため息をつく。

「そうか…」

だが、マルコは何となくホッとしていた。

あの二人は、記憶がない方がいいのかもしれない。

あの世界の二人はとても強かった。

ミカサは戦闘が。

エレンは意志が。

それは硬質で鋭く、攻撃的な光を放っていた。

あの世界ではそれが必要だった。

彼らのような曲がらない強さが何より大切だった世界だ。

けれど、この世界には少し強すぎる。

彼らがあの世界での記憶を持って生活することは、他人との軋轢を生み、彼らを生きにくくするだけのような気がした。

「ユミルとクリスタはどうなんだろう?」

アルミンは、同じことを考えていたと頷く。

「でも、あまり詮索しない方がいいのかもしれない」

これも、マルコの意見と同じだった。

だからマルコは静かに同意した。

ライナーが首を捻って唸る。

「俺にはお前らが何を話してるのか、いまいちわからないんだが」

マルコは苦笑した。

「いいんだ。大したことじゃない。行こう」





(20131202)


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