「出会いのなれそめ」







 これは、二年前の話。
 一人の人間と、一体の機械が出会った話。

 そして、二人の絆が深まるまでの経緯の話。






不「ゆうくーん!就職おめでとうー!」


遊「父さんが俺を自分の会社に就かせたんじゃないですか」


不「でも、しっかり平等に面接も入社試験もしたよ?ゆうくんは実力で入ったんじゃないか」


遊「裏で手回ししてませんよね?」


不「あれ、そんなに信用ないのかい?それよりも、ゆうくんにプレゼント!」


遊「プレゼント?」


不「お祝いのプレゼント!君、持って来てくれるかい?」













遊「なんだ、このデカイ箱……」


不「最高級で超高性能な、人間型携帯!」


遊「……わざわざあの高いもん買ったんですか!?俺が頑張ってやりくりしてたあの貯金を……!」


不「ゆうくん本当に奥さんに欲しいタイプだね。お祝いとして買ったんだよ、ゆうくんが喜ぶと思って」


遊「……出来れば動物型が…」


不「あ、そっちが良かった?でもこの子も良いと思うよ?良い友達になれるかもしれないよ」


遊「友達…ですか?」


不「そう。ゆうくんには、機械と持ち主という関係じゃなくて、機械と友達っていう関係を築いて欲しいんだ。それが、今後の我が社の方針でもあるからね」


遊「機械と…友達ですか…」


不「部屋に持って行かせるよ。後で起動してみなさい。……よっし、食事に行こう!ゆうくん!」


遊「あぁ…はい…」


不「あ、そうそう。その子の名前は『クロウ』君だ。仲良くしてやってくれよ?」


遊「『クロウ』……?」














遊「説明書自体は、普通のとそんなに変わりないか…。とにかく、起動してみないと分からないな。


  起動ボタンは……これか。これを3秒ほど押しっぱなしで……(ピッ」







――ウィィーン







ク「(パチッ)」


遊「うおっ!目が開いた…!」


ク「……初めまして、マスター」


遊「え、あ、俺か?は、初めまして…」


ク「俺の名前は『クロウ』。今日からお仕えさせていただきます」


遊「え…え…?」


ク「マスターは何がお望みでしょうか?」


遊「の、望みって?」


ク「初期登録です。携帯に何をお望みになりますか?」


遊「何を……、父さんが言っていたのはこのことか?」


ク「ご自由にお申し付けください」


遊「じゃあ……友達になりたい」


ク「友達…ですか?そういう設定はございませんが…」


遊「これからプログラムを作って行けばいい。俺はお前を携帯として使わない、友達として付き合いたい」


ク「……プログラムを作っていただけるのなら助かります」


遊「ところで、お前は俺の命令ならなんでも聞くのか?説明書にそう書いていたが…」


ク「はい。マスターの命令は絶対です」


遊「なら、さっそく命令をする。俺をマスターなんて呼ぶな」


ク「なら、なんとお呼びすれば良いでしょうか?」


遊「『遊星』と呼んでくれ。普通にだ。『さん』とか『様』とか付けなくて良い」


ク「了解しました、遊星」


遊「それから、敬語も使うな」


ク「敬語もでしょうか?」


遊「お前自身に設定された口調があるはずだ。それを使え、遠慮はしないで良いから」


ク「……分かった。敬語は使わない。これで設定は以上か?」


遊「設定じゃないよ、お願いだ。友達に敬語なんて、可笑しいだろ?」


ク「よく分からない」


遊「そうか。これから分かって行けばいいよ。年齢はどう設定されている?」


ク「遊星と同い年として設定されてる」


遊「そうか、ということは17歳か。同い年の友達なんて、初めてだ」


ク「それは嬉しいのか?」


遊「そりゃ嬉しいさ。俺は年上の友達ばかりだったからな」


ク「遊星が嬉しいなら、俺も嬉しい」


遊「……それが友達としての意識なら、余計に嬉しいよ。さっそく、プログラムを組もうか」


ク「接続コードが同封されている。それを使え」


遊「あぁ、分かったよ」




+++++++++++++++++++++









――二日後









遊「父さん、行ってきます。父さんもそろそろ出ないと、また遅刻で怒られますよ」


不「大丈夫大丈夫、もう言い訳は考えてあるから」


遊「しばきますよ」


不「冗談だよ!」


遊「それじゃあ、お先に行きますね。クロウ、行くぞ」


ク「封筒忘れてるぞー!これ大切なんだろー?」


遊「あぁ、そうだった。有難うクロウ」


ク「おっちょこちょいも大概にしとけよ」


遊「そうだな」





不「たった二日しか経ってないのに、もうすっかり仲良しだなぁー…まるで息子が二人居るみたいだよ…。

  それにしても、クロウのプログラムをあそこまで人間に近く組むことが出来るとは…我が息子ながら凄いな…」











遊「うわ…事故かなにかか?妙に渋滞してるな…。このままバスに乗ってどのぐらいで着くか…」


ク「……このまま予定通りバスに乗ったら、約40分ぐらいで会社に就くぞ」


遊「さすが万能だな、助かるよクロウ。道を変更しよう、徒歩の方が早く着きそうだ」


ク「じゃ、荷物は俺が持つ」


遊「そうか?じゃあ、こっちを持ってくれるか?」


ク「了解」

















不「ただいまーゆうくんー」


ク「おかえり。飯出来てるぞ」


不「ただいま、クロウ。ゆうくんは?」


ク「風呂洗ってる」


不「そっかーお風呂の支度か」


ク「上着。掛けてくる」


不「本当かい?有難う、クロウ」








不「いやぁ、ゆうくん!クロウは本当に良い子だねぇー」


遊「そうだな」


不「ゆうくんのプログラムも凄いよ。あそこまで人間に近付けるなんてね」


遊「なんとなく作ってみただけだ」


不「それが凄いんじゃないか」


遊「それよりも、早く食べてくれ。ご飯が冷める」


不「あ、うん。いただきまーす」


遊「クロウ!充電の時間だぞー!クロウー!」


不「(ゆうくんが寝てる間に、私もクロウのプログラムを少し作ってあげようかなー)」




++++++++++++++++++++










――次の日







遊「父さん!!」


不「なんだい?ゆうくん?」


遊「クロウに何をしたんだ!?」


不「あ、さっそく見てくれたかい?私もね、クロウのプログラムを少し工夫して、人間に近付けようとしたんだよ!どんな感じ?」


遊「ど、どうもこうも……っ!」


ク「遊星っ!いい加減コード抜いてくれよ!動けねぇじゃねぇかよ!」


遊「なんか随分とアグレッシブになったぞ!?」


不「ここまで感情豊かなプログラムを作ってしまうなんて…やっぱり私は天才か」


遊「馬鹿と天才は紙一重ってこのことを言うんだな……!」


ク「遊星、コード!抜けって!」


遊「す、すまない…っ(カチッ」


ク「やぁっと解放されたぜ、全く…」


遊「……今度からは…気を付ける…」


ク「……そんなにしょげるほどキツク言ってねーぞ」


遊「いや、うん…気にしないでくれ…」


不「あぁっ、ゆうくんが小さく見える…っ」


遊「誰のせいだと……ッ!!」


ク「出勤の時間だぞー!親父さんみたいに遅刻魔になっちまうぞー!」


不「!!!」


遊「もうそんな時間か…!じゃあ、行ってくる」


不「あぁ……行ってらっしゃい…」


ク「親父さんも遅刻すんなよー」


不「うっ……。確かに…余計なことしちゃったかも…っ」











遊「クロウ、ちょっとジャックに電話してくれないか?」


ク「え…めんどい…」


遊「……いや…そこを何とか…」


ク「それにあいつ、うるせぇんだもんよ」


遊「……頑張って大人しくさせとくから…」


ク「うるさくなったら、すぐ切るからな」


遊「…………」









不「(ゆうくん…ごめん…っ!)」





+++++++++++++++++++++










――1年半後










ク「ぅおおおい!!また充電放置プレイかよ!!パンクすんだろ!」


遊「身体の隙間なく貯めていろ。お前は会話だけで電池消費するから一日持たないんだ」


ク「お前が喋らすようなことばっかするからじゃねぇか!」


遊「心外だな、俺はごく普通に過ごしてるだけなんだがな」


ク「お前の過ごし方は、俺に負担掛けることばっかしてるってことだな。成程な」


遊「お前も携帯のくせになかなか俺の負担を追加してくるな。お前は本当に携帯なのか?」


ク「別に負担掛けた覚えはねーけどなぁー!」


遊「無自覚って携帯にもあるんだな、吃驚だ。ほら、出勤の時間だから行くぞ」


ク「抜け!コードを抜け!」


遊「自分でそれぐらい抜けるだろう!」


ク「自分で抜くのって意外にいてぇんだぞ!第一、コードの抜き差しは元々持ち主の仕事だろうが!」


遊「俺は朝忙しいんだ!仕事の準備に朝食の準備に掃除に洗濯!」


ク「そんなもん、親父さんにやらせろ!どうせ遅刻なんだろ!」


遊「親父にやらせたらどうなるか分からないんだ!中身は子供みたいな人だからな!」


ク「なんだよそれ本当に大人かよ!」


遊「あれでも大人なんだ!悪いな!」








不「ゆうくん……随分とたくましくなって……っ(涙目」



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