「ウイルス」






 携帯だって、風邪を引く。
 ただ、携帯の風邪は人間の風邪より厄介だ。






遊「何処の馬の骨からもらってきたんだ…」


ク「……性病みたいな…言い方すんな…」


遊「全く、ウイルス感染は結構厄介なんだぞ…。俺がシステム系の職に就いていなければ、お前は約三週間ぐらい使い物にならなかったはずだ」


ク「はいはい…感謝してますよ…」


遊「ブルーノ、クーラーを入れてくれ。少しでも機器の熱を冷ましたい」


ブ「うん、何℃くらい?」


遊「17℃」


ブ「え、大丈夫?マスターが寒いんじゃないの?」


遊「大丈夫だ。俺なら平気だ」


ブ「そうかい……?(ピッ」












遊「重要なプログラムには、ウイルスはまだ行き届いていないみたいだ。ブルーノ、お前もこい。感染しないように強化しておくから」


ブ「はーい」


ク「……頭が…ぐるぐるする…」


遊「覚えておけ、それがウイルス感染だ。しっかりとした考えが出来ないだろう?思考プログラムが弄られてるんだ」


ブ「大丈夫?クロウ…?」


ク「お前は…掛からない方が良いぞ……思ったより…キツイ…」


遊「ブルーノ、クロウに『ざまぁみろ』と言っておけ」


ク「お前が言ってんじゃねぇかよ……」


遊「お前のおかげで俺は仕事が出来ないんだ。看病して貰ってることに感謝して欲しいな」


ブ「でも丁度良かったんじゃない?マスター、今日で徹夜3日目でしょ?」


遊「やらなきゃならないことが溜まってたんだ」


ブ「無理はダメだよ。仕事の前に身体壊しちゃうよ?身体壊しちゃ、仕事も何もないよ」


遊「人間は大丈夫だ。休めばそれなりに治る。だが、お前たち機械はデリケートなんだ。少しでもウイルスを身体に入れてしまうと、さまざまなプログラムが破壊されてしまう。元通りに直るなんて、滅多にないんだ」


ブ「……気を付けるよ」


遊「気を付けなかった馬鹿がこんな目に遭う」


ク「このやろ……っ、弱ってる携帯を前にズバズバ言いやがって……」


ブ「クロウ、今日ばかりは言い返せないよ」


遊「大人しくじっとしていろ」


ク「くそぉ……」
















遊「熱は……少し引いたみたいだな」


ク「………大丈夫か?」


遊「何がだ?」


ク「手、いつもより冷てぇぞ……室温キツイんじゃねぇのか…?」


遊「お前が気にすることじゃない」


ク「気にするだろ…自分の持ち主なんだぞ…」


遊「人間は着込めば大丈夫。機械はそうもいかない。お前が心配することは何もない」


ク「……ブルーノ、タオルケットを遊星に持って来てやれ」


ブ「うん、分かった」


遊「クロウ……」


ク「無理すんなっての…お前まで倒れたら、誰が俺を直すんだよ…」


遊「……そうだな、すまないクロウ」


ブ「はい、マスター」


遊「有難う、ブルーノ。……クロウもブルーノも、温かい手をしてるな。俺とは大違いだ」


ブ「温かい…?でも僕らは機械だよ?」


ク「ブルーノはともかく、俺は熱が溜まってるだけだぞ……」


遊「いや、機械にも体温はあるさ。少なくとも、俺はそう思ってる。機械にも体温はあるし、心もある」


ク「心じゃなくて、プログラムだろ」


遊「なら、何でクロウは…ブルーノにタオルケットを持ってくるように言ったんだ?そんなプログラム、作られているはずがないだろ?」


ク「う゛……」


ブ「僕もクロウの言葉を聞いて、持って来なくちゃマスターが大変だって思ったんだ。これも心かな?」


遊「あぁ。自覚してないだけで、お前たちはしっかり心を持っているんだ」


ブ「そっか…これが心なんだ…」


遊「お前たちには、好き嫌いの感情もあるだろ?ブルーノ、俺はどうだ?」


ブ「好きだよ。だってマスターだから」


遊「クロウ、お前はジャックと鬼柳はどうだ?」


ク「何でそいつら……。…別に嫌いじゃねーよ…」


遊「じゃあ、俺はどうだ?」


ク「………、好きに決まってんだろ(ボソッ」


遊「よく聞こえないが」


ク「てめっ……、好きだよ好きで悪いかよ!!」


遊「好き嫌いを判別できる、これも心があるからじゃないか。他の機械じゃ、そんな判別は出来ない」


ブ「そうなのかな…?ねぇ、クロウ?僕たち、心があるんだって!どうしよう?」


ク「どうもしねーよ……」


遊「普通の機械は、こんなツンデレしないから心がある」


ク「ツンデレ言うなッ」


ブ「ねぇ、マスター?僕たちも、人間と同じようになれるのかな?」


遊「なれるさ。人間顔負けの、綺麗な心を持ってるからな」


ク「そうそう、遊星よりかよっぽど綺麗な心を持ってるぜ」


遊「クロウ、今のお前は抵抗する力もない。すなわち、俺の好き勝手に出来るということだ!」


ク「すいませんごめんなさい許してください改造反対だからその怪しい工具を仕舞ってください!!」


遊「分かれば良いんだ、分かれば」


ク「この…鬼…」


ブ「クロウ、マスターはどの人間よりもかなり心が真っ白だと思うよ?」


ク「真っ白な人間は工具で脅さない」


遊「脅したわけじゃない。促したんだ」


ク「言葉を選べば良いなんて思うなよ」




++++++++++++++++++++







ク「畜生……俺が動けないことを良いことに…好き勝手言いやがって…」


ブ「まあまあ、クロウもじっとしてないと…」


ク「……2年前は…こんなことなかったのに…」


ブ「じゃあクロウと話してるうちに成長したんだね、マスターは!」


ク「……俺のせいか…よ…」


ブ「え、いや、そういうつもりじゃ…」


ク「……思い当たる節が……かなりあって…っ(泣」


ブ「……そうか、マスターがあぁなったのは…君のせいか」


ク「言うなー!俺はもう現実を見たくないーっ」


ブ「機械が現実逃避しちゃ終わりだと思うんだ」

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