「脱走魔」







『脱走魔』








遊「……暇」


鬼「坊ちゃん、貴方の目の前をご覧ください」


遊「暇すぎる…何か面白い事は無いのか…」


鬼「坊ちゃん、目の前に面白いモノが広がっているので、ご覧ください」


遊「なぁ、鬼柳。何か面白い事を知らないか?」


鬼「目の前の書類が溜まってると言う事くらいですかね?」


遊「はぁ……暇だ」


鬼「坊ちゃん、書類してください。書類」


遊「書類?なんだそれは。この紙切れで満足しろと言うのか?」


鬼「坊ちゃん、その紙切れ一枚で財政界が傾くんですよ?」


遊「こんなもの、父さんにあげてくれ。喜ぶから」


鬼「えぇ、喜ぶでしょうね。両手を上げて泣きますね」


遊「だから鬼柳、これは父さんに」


鬼「坊ちゃん、仕事はちゃんとしてくださいね」


遊「鬼柳…お前は口を開けば仕事仕事と……俺の娯楽と仕事どっちが大切なんだ」


鬼「仕事です」


遊「鬼柳の馬鹿――!!(バタンッ」


鬼「坊ちゃん勢いで逃げないで!!俺が怒られるから!!」













遊「何か面白い事知らないか?」


ク「仕事逃げて来たんですね、坊ちゃん」


遊「仕事何か嫌いだ…あれは元々父さんの仕事じゃないか…」


ク「それでも、坊ちゃんは社長なんですから。仕事はしっかり取り組まないといけませんよ」


遊「……敬語使う奴は首を撥ねられればいい…」


ク「……あのな、遊星?確かにお前は18歳だけど、大企業の社長なんだ。お前が仕事を放棄するだけで、会社は崩れるんだぞ?」


遊「……だが、俺は会社を継ぐなんて言ってない。それに、肩書きが社長ってだけで、実際は仕事などしてない…」


ク「ご主人様も、お前に早く仕事に慣れて欲しいんだろうよ。それに、一人息子に会社を継いで欲しいってのは親心じゃねぇか」


遊「分かってはいるんだが……まだ受け入れられない」


ク「お前の気持ちも分かるんだけどな。でも、与えられた仕事を投げ出すなんて、人間としてやっちゃいけねぇよ」


遊「………」


ク「遊星にはどうってことない仕事だろ?それに、父親の手伝いって思いながらやれば良いじゃねぇか」


遊「……やっぱり…やった方が良いか…?」


ク「あぁ、当たり前だ」


遊「…分かった。書類作業してくる」


ク「おう、行って来い!何か煮詰まったら、いつでも話相手になってやっからよ!」


遊「有難う、クロウ。お前に話を聞いて貰うと、楽になるよ」


ク「役に立てたんなら良いんだけどな」


遊「十分役に立ててるさ。それじゃあ、行ってくる」


ク「いってらっしゃい」














鬼「いやぁー、世話掛けたなー」


ク「お前のやらしいな。影でしっかり話聞いててさ」


鬼「坊ちゃんが心配で心配で」


ク「少しは逃げる癖を直さないとな…いずれ外にまで逃げるかもしれねぇぞ」


鬼「出入り口全部に仕掛け作っておくか」


ク「ご主人様に頼んで、監視カメラも設置するしかないな」


鬼「それから、クロウもあんまり匿ったりすんなよ?坊ちゃんの癖になるから」


ク「心配しなくても、匿ったりしねぇよ。見つけ次第連絡だ」


鬼「それなら良いんだけど」


ク「ほら、お前もいつまでもここにいねぇで、さっさと坊ちゃんの部屋に戻れ。また逃げるぞ」


鬼「おっと、俺の仕事忘れるとこだった」


ク「しっかりしろよ、専属執事さんよぉ」


鬼「執事でも忘れちゃうことあるんですー。そんじゃ、お世話しに行くかー」


ク「今度は逃がすんじゃねぇぞー」


鬼「分かってるってー。……おっとそうだった、花瓶全部の花を入れ替えておいてくれ」


ク「あぁ、分かった」
















遊「終わった……(バタッ」


鬼「お疲れ様です、坊ちゃん」


ア「疲れ解消に、ハーブティーでもどうぞ」


遊「有難う……」


鬼「それでは、ご主人様の所へ持って行って参りますので。失礼いたします」


遊「あぁ、頼むよ」







――バタン






遊「アキ。父さんはいつもこの仕事をしているのか?」


ア「ご主人様は、貴方よりも大変な仕事を毎日こなしています」


遊「そうか。父さんも大変なんだな」


ア「坊ちゃんは、結構自由な方なんですよ?」


遊「そうみたいだな…」


ア「少しは心を入れ替えました?」


遊「……あまり逃げないようにしようと思う」


ア「少しでも考え直したのなら良かったです」


遊「この後の予定は?」


ア「バイオリンのレッスンですね」






――ダッ






――バタンッ







ア「……何も学んで無かったみたいね」














遊「バイオリンのレッスンの存在意義が分からない。金持ちはバイオリンが出来なきゃいけないのか?義務なのか?
  もし義務だとしたら、何のためにあるんだ?全く意味が分からない。
  金持ちだからってバイオリン弾く理由が分からない。ピアノ?ハープ?フルート?楽器が出来なくても良いじゃないか!

  そうだろう!?クロウ!!」


ク「坊ちゃん……何で戻って来たんですか……」



遊「ダンスレッスン?踊れなくても良いじゃないか!踊れたらどう得するんだ?どうせ俺は参加しないんだぞ?この世は何か間違っている!
  本当にそう思うだろう?!クロウ!!」


ク「坊ちゃん、俺に仕事させてください……」











『おまけ』






遊「舞踏会ってなんだ!その辺で踊っていればいいだろう!何故そういうものを開く!?
  社交辞令なら他にも出来る事があるだろう!なぁ、クロウ?!」


ク「あの、坊ちゃん……」


遊「第一、何であんなに家がでかいんだ!大豪邸の意味が分からない!普通の小さい家で十分じゃないか!
  何故わざわざ監視しにくい広い敷地にしたんだ!全くもって意味が分からない!なぁ、クロウ?!」


ク「坊ちゃん、俺の話も……」


遊「それになんで俺が公爵や婦人にお会いしなければならないんだ!俺はまだ18だぞ!?そういうのは父さんがやるべきだろう!
  父さんが出来なければ母さんがやればいいじゃないか!根本的に間違っている!

  なぁ、クロウ?!そうだろう?!」


ク「俺に仕事させてくれ遊星!!!」







[ 205/211 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -