「使用人」










『使用人』







鬼「坊ちゃん、朝ですよ。起きてください」


遊「ん……、おはよう…」


鬼「おはようございます。おしぼりをどうぞ」


遊「有難う」


鬼「今日のお着替えはこちらです。ボタンを外すので、動かないでくださいね」


遊「……鬼柳、敬語止めてくれ」


鬼「はぁーい、かしこまりましたぁー」


遊「フッ、鬼柳は素直で良いな…」


鬼「坊ちゃんのお願いは絶対だし?はい、ばんざーい」


遊「むぐっ。……っ、その子供扱いはどうにかならないのか?」


鬼「こういうのはノリだよノリ。はい、腕通してー」


遊「服ぐらい自分で着るんだが」


鬼「俺の仕事奪わないでー」


遊「朝から元気だな……」


鬼「元気だけが俺の取り柄ってね。おしっ、今日も決まってるぜ!」


遊「お喋りは多いのに、手はしっかり動かしてるな。そこは感心する」


鬼「慣れっていうの?そんな感じ」


遊「鬼柳は楽で良いよ」


鬼「それは褒めてると取って良いのか?」


遊「あぁ、褒めてる」


鬼「光栄ですっ!んじゃ、朝食の時間なので、早めに移動してくれよなー」


遊「あぁ」















ブ「坊ちゃん、今日の味付けはいかがでしょうか?」


遊「敬語を止めてくれたら凄く美味しいよ」


ブ「……もう、坊ちゃんには敵わないなぁ」


遊「今日も凄く美味しいよ、ブルーノ」


ブ「有難うございます(ニコッ」


遊「鬼柳、今日の予定は?」


鬼「今日は、お昼から公爵がお見えになります。それから昼食後に書類にサインを。その後にダンスレッスンです」


遊「逃げたい」


鬼「逃げたらご主人様に言い付けます」


遊「くっ……」


ア「諦めてくださいね。逃げても、やるべき事が溜まるだけです」


遊「………面倒だ」


ブ「頑張ってください。三時のデザートは、坊ちゃんのお好きな物にしますから」


遊「……食べ物で釣るとは…ブルーノも考えたな…っ」


ブ「坊ちゃんが逃げるからです」


遊「そう言われるとな……」


ア「早く食べて、準備なさってくださいね」


遊「………」
















ク「庭の掃除は、大体このぐらいで良いか…。後は雑草抜きに…植木の水やりに…」


鬼「クロウ!」


ク「ん?」


鬼「これから買い出しに行くんだけどさ、一緒に行くか?確か、除草剤欲しいとか言ってたよな?」


ク「あー、そうそう。除草剤が無くなって来たんだった。俺も行く」


鬼「じゃあ、準備して来いよ。俺は他の奴にいるもん聞いてくるからさ」


ク「分かった。じゃあ、ついでにこのホウキなおしといてくれ」


鬼「逆方向じゃねぇかっ!あぁ、もう良いや、持ってく!」


ク「わりぃな、頼むわ」


鬼「その代わり、早く準備しろよ。こっちは昼から仕事入ってんだから」


ク「分かった分かった。門のとこで待ってるわ」


鬼「おう、分かったー」















遊「ん?なんか鬼柳がバタバタ走りまわっているな?」


ア「今から買い出しだそうですよ」


遊「何!?俺も行きたい!」


ア「ダメです」


遊「……使用人ばかり…ずるい…」


ア「悔しかったら仕事終わらせてくださいね。庭くらいなら外出させてあげます」


遊「………ハァ」















鬼「えーっと、グラス買った…調味料買った…生地も買ったし、お香も買った…」


ク「坊ちゃんに何か買って行かなくて良いのか?」


鬼「あー、坊ちゃんかー…。また何を買えばいいと思う?」


ク「そうだなぁー……なんか欲しいとかそんなの聞いてないのか?」


鬼「だって坊ちゃん…物欲ないから…」


ク「そうだった。一般的に恵まれ過ぎてて物欲ないんだったな」


鬼「物欲も無い、食欲も無い、意欲も無い……」


ク「睡眠欲も無いしな」


鬼「……坊ちゃん……性欲あるのか…?」


ク「……言うな、凄く無さそうだ」


鬼「欲が無い主人ってのも大変だな…結局何を買って行ってやれば…」


ク「適当に買うか?」


鬼「またその適当ってのがな……何を適当に買うんだよ」


ク「パッと目についたものを適当に見繕って…」


鬼「これで坊ちゃんに喜ばれなかったら、ただの金の無駄だな」


ク「一か八かだろ」


鬼「じゃあ、俺が一つ選ぶから、クロウも一つ選んでくれ」


ク「よし、それをまとめてやるって寸法だな?乗った」















遊「ふぅ……。アキ、紅茶頼む」


ア「はい、かしこまりました」


遊「クロウも鬼柳も遅いな…何処まで買い物に行ったんだ」


ア「買い出しで手間取っているんでしょうかね?」


遊「買い出しのメモをしていかなかったのか?鬼柳に限ってそんなミスは…」


ア「きっと、最後の買い物に手間取っているのね…」


遊「?」










ア「遅いですね…もうお昼になってしまいます」


遊「公爵がいらっしゃるというのに、専属執事がいないのは話にならないじゃないか…」


ア「早くしないと、準備もあるのに…」









――バタンッ








鬼「申し訳ありません!遅くなってしまいました!」


ア「どこまで行ってたの?もうすぐお昼になってしまうわよ?」


鬼「ちょっと買い物で手間取ってて…」


遊「すぐ準備に取り掛かれるか?」


鬼「えぇ、問題ありません」


遊「それじゃあ、すぐに支度をしてくれ。アキ、お前も手伝ってくれ」


ア「かしこまりました」


鬼「あぁ、坊ちゃん。その前にこれを」


遊「……これは?」


鬼「お土産です。外へ出歩けない坊ちゃんのために、せめてもと思いまして」


遊「………これを、俺に?」


鬼「お気に召さなかったら申し訳ありません」


遊「いや、嬉しいよ。その気持ちが凄く嬉しい。有難う、鬼柳」


鬼「いえ。それから、クロウにもその言葉を言ってやってください。もう一つはクロウからなので」


遊「クロウからも?分かった、ちょっとお礼を言ってくる。二人は準備を勧めてくれ」


鬼「イエス、マイロード」










――バタンッ










ア「やっぱり、お土産で遅くなってたのね?」


鬼「だってさ、坊ちゃんに物欲ってないじゃん」


ア「まあ、選ぶのは大変だけどね」


鬼「喜んでもらえたようで安心したけどなー」


ア「とにかく、今は準備を進めるのが最優先よ。いつまでも余韻に浸ってないで、さっさと終わらせるわよ」


鬼「はいはい、了解ー」







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