「雪雲」
時が流れるのは早い。
あの時は満開だった桜の木も、今は葉が点々と付いてるだけ。
『雪雲』
この日は凄く寒い日だった。
部屋の引き戸を固く閉じ、ストーブの近くで本を読んでいた。
今日は、傍にクロウは居なかった。
不思議に思い、部屋の外に出た。
「クロウ、寒くないの?」
クロウは同じ場所に居た。あの縁側に。
外の気温はおよそ5度。凍え始める身体を両手で擦りながら、クロウの隣にしゃがんだ。
クロウは空を見つめたまま、ジッとしている。
「クロウ、寒くないの?」
俺がもう一度声を掛けると、クロウがポツリと一言。
「寒くない。気温を感じないからな」
クロウの肌色は真っ白だ。触らなくとも、冷たいであろう予想はつく。
俺は一度部屋に戻り、再びクロウの元へ。
持ってきたものを、クロウの後ろから掛けてやった。
「気休めにしか、ならないけど」
自分の身体を包んだ毛布を見、クロウは軽く微笑んだ。
「有難う。暖かい気がする」
その言葉に気を良くした俺は、クロウの隣に座って同じように空を見上げた。
クロウは、自分を包む毛布の半分を、俺に掛けながら言った。
「今夜、雪降るから…温かくして寝ろよ」
それでずっと空を見ていたのだろうか。
空は厚い雲に覆われている。そう言われれば、確かに降り出しそうな雰囲気だ。
「……分かるの?」
「少し、な」
隣同士、並んで見る空は、酷く淀んでいた。
心なしか、少しずつ気温も下がっている。
「クロウ、寒いから中に入ろう」
俺がそう言うと、クロウは首を横に振った。
「今は…まだ良い」
まだ空を見ていたいのだろうか。
もしかすると、クロウは雪が好きなのかもしれない。
俺は居間の方へ走った。
どすんっ
「なんだ?」
俺が縁側に置いたものを見、クロウは首を傾げる。
「なんだって…、炬燵」
俺が真顔で応えると、クロウは吹き出した。今度は俺が首を傾げる番だった。
クロウはある程度笑うと、炬燵を指差して言った。
「で、炬燵をどうするんだ?」
「ここに炬燵置けば、暖かいまま空を見れるだろ?」
俺にしては大胆な行動だっただろう。
それでも何も言わずに炬燵の中に入るクロウに、俺は嬉しさを覚えた。
「雪、降るかな」
「降って欲しいか?」
「……どうだろう。でも…」
「でも?」
俺は、クロウに笑い掛けながらお茶を飲んだ。
「クロウと見る雪は、綺麗だろうね」
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