「プロローグ」
季節は、春。
それは、俺が幼い頃の出来事だった。
その日は、快晴で気持ちのいい風が、家中に吹いていたのを覚えている。
長い廊下を行き来しながら、廊下の窓から見える庭を見つめていた。
俺の家は古い家屋だった。
庭も他の家よりも広く、造りも丈夫。
何百年以上も経っている家とは、到底思えないような立派なものだった。
そして、その家屋には代々言い伝えがあった。
この家には、妖怪が住み着いているのだと。
今までの血縁者は、数名だけ見た覚えがあるらしい。
俺の父方の祖父も、幼少の頃に見たことがあると言っていた。
だが、妖怪だからという理由で、見えた者は不用意に近付こうとしなかった。
だが、あの頃の俺は違った。
気が付けば、話し掛けていたのだ。その妖怪に。
俺の人生が、変わった瞬間だった。
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