14「ねぇ…これはどういうことなのかしら?」 雨はいつの間にか上がり、黒い雲の切れ間からは太陽が顔を覗かしている。 そんな天気を余所に、ここでは土砂降りの雨が降りそうだ。 「なんで沖田と斎藤が助けに来たのよ」 あいつらはなまえちゃんを恨んで憎んでいるはずなのに、と続ける。 そんなこと言われたって私にも何がなんだかわからない。 斎藤先輩も沖田先輩も考えていることなんか読めないけど、沖田先輩は特に私のことを物凄く恨んでたはずだ。 「自分の立場がわかっていないようね」 「何言って…」 「雪村千鶴…目が覚めたんだって…?」 なんでコイツがそのことを知って…!? 私たちしか知らないはずなのに…。 「なんで知ってるの!?」 「あぁ…やっぱり。目が覚めて全部話したのね…彼女…」 しまった…! まんまと誘導尋問に引っかかってしまい千鶴が目を覚ましたことを教えてしまった。 息が詰まる。 一発触発の緊張した空気が、雨上がり独特のじめっとした空気と混ざって冷たい。 「千鶴に何する気?」 「何もしないわよ」 「嘘だ…っ」 「雪村千鶴“には”何もしないわ」 「は…?」 何、言っているの? 不敵な笑みを浮かべた彼女。 何を考えているのか、全くわからない。 「なまえちゃんの大事な人…まだいるわよね?」 「平…助…」 「次傷つくのは誰かなぁ」 「もう…やめてっ!私だけでいいでしょ…!それに黒幕名前は平助のこと…好きなんじゃ…」 「は?誰がそんなこと言ったのよ!?私が好きなのは…っ!」 「?」 さっきまで冷静に淡々と言葉を並べていた彼女がここにきて初めて感情を露わにした。 平助のことを想っての行動じゃない…? だとしたら、何故こんなことをしている? 「何でもないわ…」 てっきり、平助を奪おうとしての行動だとばかり思っていた。 それ自体が間違った考えなのか、彼女の目的は他にあるとしたら…。 「痛っ」 いきなり黒幕名前に腕を掴まれて、教室とは反対側へと歩き出した。 精一杯力を込めて握られた腕は、次第に血が止まってゆく。 痺れて感覚がなくなってきたところに、不意に携帯が震えだした。 「あ、」 「…メール?」 「そう、だけど…」 「ふーん…誰から?」 「なんで教えなきゃいけないの」 私を一瞥してから“立ち入り禁止”の看板を跨いでいく。 掴まれたままなので、そのまま着いて行くしかなく、私も看板を跨ぐが…。 「屋上…?」 来たのは屋上で、所々に先ほどの雨の名残が残っている。 吃驚して動きが止まっているところを狙って、携帯を盗られてしまった。 「返して!」 「さっきのメール…藤堂平助から、か」 「勝手に見ないでよ!」 「“大丈夫か?”だってさ。大丈夫なわけないよねー」 そう言い、けたけたと笑い出す黒幕名前。 大丈夫じゃないって、今から一体何する気なの。 正気じゃない彼女を落ち着かせる方法なんてあるのかわからない。 怖い…平助、助けて…! その瞬間、携帯がメールの時とは違う震え方をし始めた。 この震え方は、電話だ。 「あら。藤堂平助から電話だわ」 「出ないで…!」 私の願いも虚しく、彼女はあっさりと通話ボタンを押す。 途端に「もしもし!」と焦ったような平助の声が、静かな屋上に木霊した。 『なまえ!?』 「もしもしー」 『お前…!黒幕名字かっ』 黒幕名前が携帯を耳につけて会話し始めた為、私には一切会話が聞こえなくなってしまった。 どのような会話なのかとても気になる。 電話に夢中でいつの間にか私の腕は、彼女の手から解放されていた。 掴まれていた所は赤く痕が付いてしまったが、そんなことより逃げなきゃ…。 でも、出入り口の所には黒幕名前がいる。 どうすれば…! 「うるさいわね!私の邪魔をするからこんなことに…っ」 黒幕名前がいきなり怒鳴りだした途端に、出入り口から複数人の階段を駆け上がる音が聞こえ出した。 「平助…っ」 「なんで邪魔するの!」 バターンっと強い音がした。 「なまえ!」 先には平助や薫、沖田先輩や斎藤先輩までもいる。 「みんなして何なの!?私はただ…なまえちゃんが好きなだけなのにっ!」 (2012.5.5改正) |