06朝、家を出るときにお母さんに「学校は楽しい?」って聞かれた。 幸い、先生方は親にも連絡せず、警告だけで済ませてくれた。 だから親には一切の事情が伝わっていない。 さらに、私が言うはずもないので何も知らないのである。 親に心配なんてかけたくない、ただそれだけのこと。 「楽しいよ!」 精一杯の笑顔で言う嘘。 それが今私にできる限界だった。 親に嘘をつくのは少々胸が痛いが、仕方ないと言い聞かせていってきますを言う。 「なまえちゃんおはよ!」 「おはよう…」 「今日もよろしくね!」 「うん…」 今日も、黒幕名前をいじめから守らなくてはいけない。 全部悪いのはこいつなんだが、私の言葉を聞くやつなんていないし。 学校に足を踏み入れたら、まずは罵倒の嵐。 そして、授業にならない授業を受けて、休み時間には殴ってきたりする奴もいる。 今日だって、昼休みに無理やり女子トイレに連れ込まれたかと思ったら水をぶっかけられる。 「あんたさぁ、こんなブスと一緒にいたら怪我するよー?」 「なまえちゃんはブスじゃない…」 「うっせぇな!こいつ!」 振り上げられた手から黒幕名前を庇う。 そうしたら、容赦なく私の頬に平手があたり、ジンジンとした痛みが後からくる。 「黒幕名前は関係ないでしょ…」 だけど、最近思うんだ。 こんな痛みより、平助の心の痛みのほうが酷いんじゃないかって。 千鶴の身体に受けた傷のほうが痛いんじゃないかって。 そう思ったら、こんな痛みどうってことなくて。 頬を叩いたことで動揺してしまったのか、女の子たちは逃げてしまった。 「ブス同士仲良しごっこでもしてな!」なんて素敵な捨て台詞を吐いて。 これ以上何かされなくてよかった…。 壁に背もたれながら、安堵の息を吐く。 「やっぱ守ってもらうっていいわ!お姫様みたい!」 「これで満足かしら…」 「まぁまぁね」 私を庇ったのは少し吃驚したが、あれも守ってもらうための演技なんだよね。 こいつの将来の夢は女優なのかしら。 トイレから出ると、これはまた何の因果か剣道部と鉢合わせしてしまった。 彼らは私たちをチラッと見たが、何もなかったかのように目を逸らす。 一瞬だけ、平助とも目が合ったが、当たり前のように見てみないフリ。 あの晩の平助の顔は今後一生忘れないだろう。 「あーあ。これでもう完全になまえちゃんの味方は私だけね」 元凶が何をほざいているのか。 もともとそう仕組んだのはお前だろう。 でも黒幕名前の言うとおり、私の表面上の味方はこいつしかいない。 深まった溝は埋められなくなっていて、もうあの頃には戻れないんだと実感する。 「そう…だね…」 (2012.4.5改正) |