長編不器用な青春 | ナノ




05




悪いことの噂の広まりは早いもので、学校に行くとロッカーや上靴、机等々に罵倒の落書きがされていた。
ドラマや漫画のようないじめが目の前に広がっている。

裏を返せば、千鶴はこれだけの人に愛されていたのだ。
最初は悪く思われていたけれど、変にお人好しな千鶴のことだ、きっと事後に関係を良くしたのだろう。

そんなことを考えながら席に着くと、誰かが生卵を投げつけてきた。
見事にヒットした生卵はベチャっと割れ、中身が飛び出し、制服を汚した。
しかも、これ腐った生卵だ。


「うぇ…気持ち悪…」


硫黄のような臭いに、ぬめっとした手触りに嫌気が差し、カバンを持ち教室を後にする。
その後の教室からは「逃げたぜ、あいつ」「まじなんで学校来てんの?」「つか死ね!」等の罵倒の後、気色悪い笑い声が聞こえる。

保健室に行くと、幸い誰もいない。
不幸中の幸いだと思って、すばやく着替える。
着替え終わった後、さっさと保健室を後にして教室に戻ろうかとも思ったが、あんな教室入りたくもなった。

そんな時、一通のメールが私の携帯に送られてくる。


“屋上においで”


今回の事件の首謀者、千鶴を落とした張本人、黒幕名字黒幕名前からのメールだ。

メールの通り屋上へと上がれば、彼女が髪を風に靡かせ、そこにいた。


「待ってたよ、なまえちゃん」

「お待たせ…しました…黒幕名字さん」

「ちょっと!黒幕名字さんなんて仰々しい呼び方なんて嫌よ!黒幕名前って呼びなさい。さんも敬語もなしよ」


これ命令だから、と言われてしまっては何も言えない。
私は昨日の晩、彼女と約束をしてしまったから。
卒業するまで、下手すれば一生彼女の言いなりかもしれない。

それは嫌だなぁ…。

でも、今の自分にはどうすればいいのかわからない。
千鶴は意識不明で病院にいる。
平助は完全に疑ってしまって私の言うことなんて信じてくれない。
他の友達はみんな離れてしまった。

こんなの、どうする気にもならない。


「さってと、これからどうしよっか」

「一体何がしたいの…?」

「なまえちゃんには関係ないでしょ」


今のところ、平助に近づく素振りは全くない。
折角、千鶴も私もいないし、平助は千鶴のことが好きだって知ってるみたいだから、そこに漬け込めばいいじゃない。
その為に離したんじゃないのか。


「あ!そうだ、いいこと思いついた!」


とっても嫌な予感しかない。
いや、もうすでに嫌なことしかないのか…。


「ずっとなまえちゃんと一緒にいるから、いじめから私を守ってね」

「それはあなたにとって「黒幕名前って呼んでって言ったでしょ」…黒幕名前にとってメリットなんて微塵もないじゃない…」

「これでいいの。はい、返事は?」

「わかった…」


そう言えば黒幕名前はニコッと笑い、楽しみだなぁと頬を染める。

こいつの狙いがますますわからない。
私と一緒にいたら、絶対に標的にされるけど…そこから守れと…?
でもそれなら一緒にいなきゃいい話でしょ。

でも、ここで変に反論して友達を傷つけられるのはごめんだ。
なら言うとおりにしなくてはいけない。

チャイムの音を遠くで聞きながら、千鶴が落とされる前にこうなればよかったのにな、と思った。


(2012.4.5改正)










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