04漸く鬼のような拷問から解放されたときには、外は真っ暗で月が昇っていた。 結局は最後まで信じてもらえず、処分は当分先延ばしと言われたものの、別にそんなのどうでもいいわけで。 憂鬱な気分で玄関へと向かう。 「最悪…」 「最悪なのは千鶴ちゃんの方だよね」 「ぇ…?」 振り返れば、帰ったはずの剣道部メンバーが勢ぞろいしていた。 もちろん、その中には平助もいる。 さっきの騒動で強制帰宅をくらったはずだ。 なんでここにいるの。 「なんですか」 「あーあ。僕たちが近くにいたらあんな子から千鶴ちゃんを守ってあげられたのに」 「だから私じゃないんですって!」 沖田総司は飄々と嫌味をこめて私に言葉としてぶつけてきた。 どいつもこいつもどうして私のせいにしたがる!? どう考えたってこれはおかしいところだらけでしょ。 でもまだ、平助ならわかってくれる、信じてくれる。 小さい頃からずっと一緒だったんだもの。 「ねぇ!平す「呼ぶな!」…は?」 「なまえが千鶴に嫌がらせしてたなんて…」 待って、なんの話し? 何を根拠にそんなことが言えるの? 小さい頃から知ってるよね、私が何よりも千鶴が好きなこと。 「意味…わからないんだけど…?」 「意味わかんねぇのは俺らの方だよ!もう千鶴に近づくな!この偽善者!」 「ちょっと待ってよ…嘘でしょ…」 去っていく背中をボケッと見ているしかなくて。 平助ならわかってくれると信じてた。 だって喧嘩ばかりとは言えども、幼馴染だから。 いつも四人で仲が良いねって言われてきたじゃない。 「なんで信じてくれないの…」 自分が無実なのは、自分が一番よくわかっている。 でも私だけがわかっていてもどうしようもない。 なんで信じてくれなかったんだろう。 考えても考えても深く落ちていくだけで、答えが見つからない。 剣道部の人たちや、平助が千鶴をとても大事にしていたのはわかっている。 それに負けないぐらい、私も千鶴を大事にしていた。 「千鶴を傷つけることなんてするわけないじゃん…!」 不意に携帯が震えだした。 携帯を開く気にもなれなくて、でもしつこく震えているので開いたら例のアドレスからのメール。 “後ろよ” 息を呑んだ。 ゆっくりと振り向くと、あの女が笑顔でそこにいた。 その女の存在が恐怖でしかなくて、寒気が止まらない。 こいつのせいで、千鶴は…。 そう思うと怒りがこみ上げてきて、自分自身の歯止めが利かなくなってきた。 殴りかかる数秒前、女は一層笑顔になって「取引をしましょ」なんて言いだしたのだ。 「取…引…?そんなの、」 「あなたの大事な人が傷ついていいなら殴ってもいいけど」 「…っ!そんなに…何が不満なの…」 「邪魔だったから」 「邪魔?」 「そ。雪村千鶴ちゃんだっけ?あの子が一番邪魔だったのよ。周りをうろちょろしやがって…!でもこれで近づく邪魔者はいなくなったわ」 あははははっと笑うこの女…狂ってやがる。 近づく邪魔者…で、私と千鶴が邪魔ってことは…。 「あなたが好きなのは平助なの?」 「そんなこと聞いてどうするのよ」 「生憎平助は「そんなの知ってるわよ!」 「だから…だから離したんじゃない…!」 だからってして良いことと悪いことがあるじゃない…っ! たかが自分で想いを伝えられないからって千鶴を傷つけたなんて…。 「私の言うとおりにしたら、もう手を出さないわ」 「言うとおり…?なんで私が…」 「ま、明日からあなたは孤立するでしょうね。独りをとっても嫌がるあなたには地獄の日々なんじゃない?」 「…っ」 孤立してしまうのは誰だって嫌だ。 友達いないんじゃないか、とか寂しい人とか思われたくない。 そんな人目を人一倍気にするようになったのはいつからだろう。 「言うとおりにしてくれたら、大事な人には手を出さないし、独りになるあなたの側にもいてあげる。ね、悪い話しじゃないでしょ?」 「わか…った…」 この女の甘い毒に侵されずにはいられなかった。 (2012.4.5改正) |