03「あったあった」 机の中を覗くと携帯がポツンとひとつ残されていた。 これがないと生きていけない今時の若者には、忘れるなんて一大事である。 携帯が近くにないとなんだか落ち着かない。 チカチカと携帯のお知らせランプが光っているではないか。 慌てて中身を確認すると、メールが一通きていた。 「誰だ?」 知らないアドレスからのメール。 こういうのは大概迷惑メールと相場が決まっている。 いつもは中身を見ないで消してしまうメールも、今日は何を思ったのかメールを開いてしまった。 「なんだ…これ…?」 私が千鶴を階段から突き落としている写真が一枚添付されているだけ。 やった覚えところか、絶対にこんなことはしない。 ただの合成写真だとすぐにわかるものを、何故わざわざ私に送ってきたのだろうか。 これも、あの女の子の仕業…? それとも、別の人だろうか? 瞬間、騒がしくなった外。 救急車の音と、人のざわついている声が事件だと叫んでいる。 千鶴が突き落とされている写真…もしかしたら…! 急いで玄関先に行くと、そこからはスローモーションにしか世界は動かなかった。 救急車で運ばれているのは千鶴だった。 ちゃんと体育館まで送ったはずだ。 どうして、目を閉じているの? その傷は何? ねぇ、何か言って? 「千鶴…!ああああああああああ!!!!」 あいつの仕業だ。 あいつさえいなければこんなことにはならなかった。 「許さない…」 「誰をだ?」 独り言に言葉が返ってくると思っていなかった。 声の先には剣道部の顧問でもある土方先生が立っている。 誰を許さない?そんなのあいつしかいない。 「千鶴に嫌がらせしていた奴がいるんです!そいつが…千鶴をこんな目に…っ」 「じゃあこれはどう言い訳をするつもりだ。みょうじ」 土方先生の携帯の中には先ほどの捏造写真とはまた別の、千鶴を階段から突き落としている写真があった。 そんな嘘写真信じるっていうのか。 「そんなの私のはずないでしょう!?」 「これを送ってきたやつのメアドがお前だったが」 「は?」 送信ボックスを開いた。 一番上には画像添付だけの一斉送信メールがある。 こんなの知らない。 見覚えのないメールに世界が崩れていく音がした。 「なんなの…!?」 「こっちこい」 これは私じゃない。 私は何もやっていない。 やるわけがない。 大切な親友を、好きな人の恋焦がれている人を傷つけるはずないじゃない! 「私はやってない!」 「嘘つくな!」 「こんなことするわけないでしょ!?千鶴は私の親友だよ!?」 「女は怖ぇからな。仲良さそうに見えて、実は相手のこと嫌いってケースよくあるぜ?」 連れてこられた教室には『生徒指導室』のプレートが下げられている。 目の前には剣道部顧問の土方先生と原田先生の二人。 質問攻めというより、半ば拷問に近い指導。 教育者がこんなことしていいのか、と疑問が過ぎる。 私がいくら反論しても聞いてもらえず、また証拠とか言っていくつもの捏造写真や裏掲示板の書いた覚えもないコメントやらを見せられた。 「ハメられたのよ!こんなの知らないものだらけだ!」 「誰にハメられたのか言ってみろ」 「千鶴に嫌がらせしていた奴…ふわふわとした女の子で、ピンクのレースのハンカチを持った子!」 「名前と学年は?」 知っているはずがない。 自己紹介なんて暇なかったんだから。 「知り…ません…」 「そいつはお前が作り出した奴って可能性もあるな」 「いやっ違います!本当にちゃんといたんです!」 「じゃあ証拠は?」 こいつら…本当に教師なの…? 捏造写真信じたり、私を犯人として疑わなかったり、終いには証拠は?なんて言いだした。 「もうそろそろシラを切るのもやめようぜ」 「本当に私じゃないんです!」 「いい加減にしろ!」 「土方先生!」 いつまでも否認し続ける私に、とうとう土方先生がキレてしまった。 胸倉を掴まれ、罵倒されて、私は頭が真っ白になってしまい何も考えられなくなって。 あの女にハメられた。 ただ、その事実だけが頭に残っている。 そうして、最後に残ったのは絶望という文字だけだった。 (2012.4.5改正) |