05/兵器

 兵舎に戻れば、まだ呼集もかけられていないというのに兵士たち
がひしめきあっていた。ラクヨウは彼らの間を縫って、会議室へと
急ぐ。

 その中、彼ら一人一人の顔には恐怖の感情がよく見て取れた。や
はり国王の遺体を焼いた火災を、彼らも戦いののろしと受け取った
ようだ。

 会議室にはラクヨウ以外の幹部の面子は揃っていてマーシャルも
戦争に備え、昨日まではアンティークのインテリアとして飾られて
いたかのような甲冑に身を包み、会議を聞いている。

「作戦書をよこせ、ラクヨウ」

 キングデューが全ての作戦書を取りまとめた紙束をひらひらと揺
らしながら、ラクヨウに催促した。

「それなんだが、口で説明したほうが早いな」

 ラクヨウは書面で用意をしていない口実は、あまり考えていなか
った。キングデューもまた、旧知の彼がそんなものを用意できると
も思っていなかった。

「......いいだろう、先に聞こう」

 ざわついた会議室で、まとまりのないまま作戦会議が始まる。ラ
クヨウ以外は皆、作成してきた作戦書をなんどもなぞり、その有用
性をマーシャルやキングデューに訴えかけ、議論は加熱の一途を辿
った。
 結局は、元は誰の作戦だったかも分からない作戦で決議となり兵
は各々、作戦の準備のために会議室を去っていった。

 ここまで不眠不休だった各団司令と団長は兵舎で休みをとってい
たが、ラクヨウはとても眠る気にはなれなかった。そのまま会議室
の椅子に座ったまま、じっと天井を眺めていた。

 ラクヨウは、頭の中で今回決まった作戦を何度も頭の中でシミュ
レーションさせいた。

 まずは国境。
 離反で兵が減ったこともあり、ここは普段の警備よりも数を削
り、計32の監視塔に兵を配置。残りの監視塔は放棄となった。

 国境ラインを突破する者があれば、すぐさま煙弾を放ち、中継地
点ともなる、国境ラインから10キロの平原防衛ラインへと知らせる
手はずになっている。

 一度も使われたことのない沿岸警備団の対船舶大砲は平原防衛ラ
インに合計20台設置された。その後ろでは、歩兵部隊と騎馬部隊を
漏斗のように配置し、敵軍の進路を中央に追い込みながら砲台の撃
ち漏らしを徹底的に叩く。

 親衛団は市街地を囲み、侵入を阻む。
 ここで市街防衛ラインを突破された場合は、ヘレナ王妃とマーシ
ャル王子の保全が最優先任務となり、王宮方向へ防衛ラインを縮め
ながらの戦いとなる。万にひとつ、ここまで戦火が及ぶ場合はラク
ヨウはすでにこの世にはいないだろうと考えていた。

 最終的にマーシャルの命が守れたとしても、自分の死のイメージ
は拭い去ることができなかった。完璧な作戦の遂行手順の中に、自
分の生存というルートは存在しなかったのだ。

 おそらくはバララントの第一波は今晩の夜襲になるだろう、敵と
最初に刃を交えるのは、国境警備をする警ら第2班。

 ラクヨウは大きくため息をつくと、未来から実時間に戻ってくる
かにように周りを見回した。
 静かな会議室には、キングデューとマーシャル、そしてマーシャ
ルの護衛兵士だけが沈黙のままでいた。

「ラクヨウ......」

 マーシャルが珍しく、口ごもり話すのを諦めかけた。

「なんだ」

「申し分ない作戦だと言いたいところだが、なぜ誰の作戦に
 も、議論にも出てこなかったんだろうな。
 ......古代兵器の件が」

 その言葉に、ラクヨウは俯いた。

「俺も子供の頃に噂程度で聞いた話でしかない。
 
 "王家の血を吸い尽くした大地が
 敵を消滅させるほどの兵器となる"
 
 現実的ではないが...本当にそのような兵器がこの国に存在するの 
 かどうかも、正直疑わしい」

 重苦しい空気を察してか、キングデューが冷ややかな声でマーシ
ャルとラクヨウに伝える。マーシャルの護衛兵も、心なしか小さく
頷いているようにラクヨウにはみえた。

 マーシャルはまっすぐにラクヨウを見つめ、彼から言葉が出てく
るのを待ったが、発言する兆候すら見られずにため息をついた。

「ラクヨウ、本当に、古代兵器は存在するのか......
 王家の血というのだから、俺とお袋が死んだら
 その答えはわかるんだろうが......」

「やめろ!」

 ラクヨウの悲痛な叫びにマーシャルも思わず身を引いた。

 離れていてもわかるほどに、ラクヨウの拳は震えている。

「ローランド国王は......使ってほしくないと言っていた
 それに......」

「ラクヨウ、 これは戦争なんだ。
 バララントの宣戦布告後に、俺とお袋の首で戦争が回避でき
 るなら、いくらでもそうするさ。 だが、そうした後に事が
 解決できていないならとんだまぬけだ! そうだろ!
 頼む、古代兵器の正体を教えてくれ」

「.....古代兵器は」

 そう言いかけたところで、会議室のドアが勢い良く開きクリエル
が血相を変えて飛び込んできた。


「宣戦布告だ!」

 歴史的、とでもいえる瞬間ではあるものの、先の会議室での煮え
切らない会話からか誰もが無言で席を立った。

「......マーシャル、キンディ。
 今はとにかく、戦いに集中させてくれ。
 お互い、生き延びることに専念しろ」

 王宮の敷地の外へ出ると、煙弾を確認した兵士からの報告があっ
た。監視塔32箇所のうち、敵軍の国境突破を告げる煙弾が合計15
上がった。おそらく、煙弾をあげた箇所の兵士は死んでいるだろ
う。

「警ら団国境警備、第2班は装備を整え国境へ向かえ!
 道中で敵に遭遇しても交戦するな、一気に馬を走らせろ」

 ラクヨウは自らの装備を整えながら、がなりたてるように指示を
飛ばす。

「騎兵、沿岸、2班と4班は防衛ラインまで国境警備の護衛に
 つけ! 親衛団は引き続き国境方向の煙弾状況を俺に報告
 しろ。
 "全てはメルキアのために!"」

 キンディの言葉に兵士たちは空気が歪むほどの雄叫びをあげる。
周囲は一気に慌ただしくなり、馬が一斉に王宮から走り出していっ
た。

「煙弾の集中している箇所は?」

「数は分散してます、中央付近の煙弾が最も早かったかと」

 それを聞いたラクヨウも一目散、国境ライン中央を目指し馬を走
らせた。





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