15/血と鐘

 5年前、フリードはマーシャルよりも背が高かった。
 フリードは膝をついてマーシャルに微笑みながら言ったのだ

 "僕が帰ってから、マーシャル様は勉強に忙しくなる
 だから今のうちに、ラクヨウといっぱい遊んでおきなさい"

 それよりも前、マーシャルはフリードに聞いていた。
 どうすれば、自分は王になれるのかと


「俺は、あんたのそのニコニコした優しい顔が嫌いだったんだよ。
 なのに、あんたは嫌な顔ひとつしないでさ」


 "マーシャル様、あなたの考える王とは何ですか?"

「俺はなにも、答えられなかった」

答えられないマーシャルの頭を撫で、フリードは旅立った。
彼の考える王とはなんだったのか、答えを聞くことはもうないのだろう。

「フリード、君が本当に僕の知るフリードならば
 答えられるはずだ。
 古代兵器は、どこにある?」

フリードは思わず後ずさると、額の汗をぬぐった。


「そんなもの、決まっているだろ。
 この王宮の最深部だ。
 だが、それももうお前には関係ない。
 さっさと俺の戴冠式を国中に知らせに行け」

 
しかし、その男の言葉にマーシャルの心は、
ようやくフリードの死を受け入れられた。

フリードは、留学経由地のバララントですでに殺されていた。
そしていま、マーシャルの目の前にいる男はフリードに似せた
身元不明の男だ。

フリードに成り代わりメルキアへ入り、鎖国国家の
愛国心につけこみ、兵士や国民にメルキアへの不信を植え付け
マーシャルを貶めようとしていたただの男だった。


「残念だ、非常に......
 どうして、お前がフリードを殺したのか
 そんなことはもう聞くつもりもない。
 ただひとつ、この国の人間ですらないお前に
 次期国王の僕から直々に、そして特別に教えてやりたいことがある」

「な......何を、俺は正真正銘、フリードだ
 古代兵器については噂に過ぎない!
 俺は、何も知らない!」

「この王宮の最深部にあるのは、
 フリードの墓だけだ」




国王崩御の鐘が鳴った。
ローランド国王の葬儀も、次期国王の戴冠式も待たず
また、鐘が鳴り響いた。

「ラクヨウ!おまえ、気でも狂ったのか?」

「クッソ、重ってえ鐘だ。
 片手しか使えねえんだ、お前も手伝え!」

クリエルはため息をつくと、鐘木のロープを両手で握り
思い切り鐘を鳴らし、何度も繰り返し鳴らし続けた。



「鐘...?」

王宮前にいたキングデューも、鐘の鳴っている方を向いたが
揺れる鐘のそばにラクヨウの姿をみつけ、頭を抱えた。



その鐘の音は、王宮内を駆けるように響き渡った。
マーシャルは涙を流しながら息を整え、少しだけ笑った。

「聞こえるか、国王崩御の鐘だ」

男はまっすぐにマーシャルを見据え、把握のできない
状況にだんだんと表情を青ざめさせながらも凄んでみせた。

「気前がいい、時期国王はもう死ぬところだからな」

「俺じゃねえ
 フリードが、今死んだんだ」

その言葉はしばらくの間、男の身体中を這うようにめぐった。


「古代兵器は、今動き出す
 死んだフリードの血によって」


マーシャルのその姿は、まるで死神のように
生気なく審判の鎌を握っているように見えた。





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