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「始まったか....」


サンライズホスピタルでの発砲事件をいち早く
捉えたのはボニータだった。

その数時間後に、ボンクレーはドフラミンゴのオフィスに
駆け込んで来た。

「ごめんなさいちょっと目を離した隙にフィオナがいなくなっ....ん?」

ボニータはボンクレーに余裕の笑みを見せると
警察の無線通話記録から追跡命令解除までの書類を
目の前に積み上げた。

「これを、ドフラミンゴさんに届けて?」
「ドフィ....いないの?」
「自宅にいるはずよ」


ボンクレーは、言われるがままに押し付けられた書類の束を持ち
住み慣れた屋敷に駆け込んだ。
そして一歩、中に入った瞬間の空気の違いにいち早く鼻を効かせた。

ここは、昨日まで住んでいた場所と何かが違っていた。

「ド、ドフィ....」

ボンクレーの力のない声に、ベッドから手をひょいと上げたドフラミンゴは
声も出さずにボンクレーを指一本で部屋の奥まで招いた。

「オフィスにボニータしかいなくて、あの、アチシ....ちょっと目を
離したらその、フィオナ....」
「見せろ」
「ドフィ....どうしてここに」

ドフラミンゴは寝たまま、書類に目を通して少し笑った。

「どう思う?1日も経たずにもうこれだ」

「ごめんな....さい」

「惚れ惚れする、さすがだな」

「へ?」

ボンクレーにはドフラミンゴが何を言っているのか理解できなかった。
何よりも、オフィスのあのボニータの様子に加え、生気のない寝たままの
ドフラミンゴの様子にも異変を感じていた。

「ドフィ、あなた様子が変。」

「ジョーカーは死んだ。ジョーカーは、な....」

察したボンクレーは、青ざめてドフラミンゴのベッドから後ずさった。

「ドフラミンゴ....アンタ、何なのそれ....
いつから....」

「てめェに教える義理はねェ....最後の仕事だ、ボンクレー」


フィオナが無事に、海に帰れるように....


ボニータはオフィスのデスクに張り付き、今度はFBIよりも先に
フィオナの情報を読み解き、事を起こすであろう先の警察関係者
を遠隔的にねじ伏せていた。

フィオナがヴェガスを抜けてから、もう2日経っていた。

「ハァ....」


広いオフィスに一人、ため息を漏らしながら
彼女は目の疲労を紛らわせるように目頭を抑えた。

彼女がこの役目を担うに至るまでも、ドフラミンゴの
周到な策があったのだが、今となっては恨む気にもなれなかった。

ティーンエイジャーの頃、幸せな結婚を望んだ。
それはこんな形ではなかった。
彼女は形だけでも結婚式を望み、ドフラミンゴはそれを叶え
そして今に至った。

人を何人騙し、何人殺したかも分からない男には
不思議な魅力があった、ボニータも例に漏れず、
その魅力に何人もの女が堕ちたことだろう。

ただ一人、フィオナを除いては。

フィオナはただ一人、彼の腕の中にいても自由そのものだった。
彼女がただ一人、ドフラミンゴに愛されている女だということは
ものの数週間、一緒に過ごしただけで良くわかった。



自由は時には凶器だ。
ボニータは、悔しさに似た悲しさの中、また自分のお幸せを
探す力があるが、彼らには無い。
その事実にだけ冷静に、そしていまは与えられたドンキホーテ家の
職務を全うしていた。


宝石にならない、何の価値もない涙を流しながら
またフィオナの行方を追った。



「フィオナはアチシが連れ戻す」

「フッフッフ、そうか....」

「そうじゃなきゃ、フィオナが帰ってきた時に
あんたがお墓の中だなんて、アチシ、その時フィオナに
なんて言えばいいのよう....」

「もう帰っちゃこねェよ....愛想つかされたのは俺の方だ」

「でも」

二人が一緒に居るところしか見ていなかったボンクレーにとって
離れてしまった二人という光景があまりにも悲惨に思えた。


「あいつは、一人で行けると言った。どこまで行けるか
やりてェんだろ。見ろ。」

ドフラミンゴは、何もない壁を指さしながら
大きく息を吐き出した。


「ネバダの地図を、あいつは良く見てた。
 あんなもん、すぐ使い物にならなくなる。
 その先で、どうするか、見ものだな」


「アチシ、行くわ!止めないで!」

「止めてねェよ」




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