その日

「はァ....」

たっぷりと口の中で転がされた葉巻の煙を
ドフラミンゴに吐きかけながら、クロコダイルは
盛大にため息をついた。


フィオナが居なくなってから数日後、クロコダイルは突然に
ラスベガスにやってきた。
ドフラミンゴはプールサイドのデッキチェアに横たわったままだった。
その傍ら、クロコダイルはしゃがみ込みその様子をまじまじと眺め回していた。

「ベッドで死ぬような男じゃねェとは思ってたが....どういうことだ」

ドフラミンゴは答えることはなく、口の端をぎりりと上げて
笑って見せた。変わり果てた姿に、その形相は奇妙この上なかった。


「ロズウェルで、おまえの女に会った....フィオナだな。
深くは聞かねェ....が」

クロコダイルは悲しげな表情を見せながら、言葉に詰まると
また葉巻に口をつける。
その繰り返しの中の静かな時間、まるで目の前にいる
死にかけの砂時計が、サラサラと音を立てて落ちていくのを
感じていた。



「あのとき、なぜ俺にお前に残された時間を教えなかった。
そして、なぜ俺を呼んだ」


「鰐野郎....」


力ないドフラミンゴの声に、クロコダイルはそっと耳を近づけた。
その顔から、人間の体温が感じられない。


「イイ女だろ....フィオナは」


絞り出された言葉に、クロコダイルは思わず声を上げて笑ってやりたくなった。


「ああ、お前がなぜあの女を連れて行ったのか。ようやく理解ができた」


彼も考えていた、フィオナという人魚との未来を。自分を根底から覆すことが起こる人生を、その先を。


「俺の居ない世界を、フィオナは幸せに生きていけんのか...」

「あァ....無理だろうな」


「愛してると、伝えてくれ」


もうそれ以上、その男が口を開くことは無いと、クロコダイルは分かっていた。




「自分の口で、伝えてくれ....いずれ」



悲劇ではなく、偶然でもなく、全てが必然だったことを知るクロコダイルにとって、その日は最悪な日となった。






「ここにいたのね」


暗い海の底で、温かい場所を見つけた。
それは両手を広げていた。

フィオナは迷わず、飛び込んだ。
まるで弾丸のように。

「ここに....いたのね、待っててくれたのね」

優しく抱かれる感触の懐かしさに何度もキスをして、フィオナの目からは、宝石の何倍もの価値がある涙が流れた。


そこはもう、海底でも地上でもない場所で....


「愛してる。」


「愛してる。」






プールサイドの人だかりが、次第に消えて行く。
最後までその場に残っていた男が、不機嫌そうにピンクの羽が散る
水面を眺めていた。


「一体、お前はだれなんだ。
あの日もお前は、プールに沈んでいたよな....ドフラミンゴ」



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