嵐のヨル


いつか広い海に

何気ない一言に、ドフラミンゴが笑って答えてくれるはずだった

大きなテーブルの対面に座る彼は、まっすぐにフィオナを見つめ
そしてソーサーを割るような勢いでカップを置いた。

その反応に、素直に興味を抱き、彼女は彼からの言葉を待った。

震える手を何度か握ったドフラミンゴは、息をつき
フィオナからすこしだけ顔を背けた。

「それは....叶えてやれねェな」

ドフラミンゴの口から、そんな言葉を聞いたことがなかった。
フィオナは、俯いたまま爪を噛みながら、自分の頭の整理をしていた。

頭は冴え渡る、そしてそれは
純度の高い、怒りを感じているのだと理解した。

それは、ドフラミンゴが自分の願いを叶えてくれないことに
対してではなく、別なこと。

今まで、言い出せなかったこと。

しかし、この期に及んでもその言葉は
絶対に口にしてはいけないと心が叫ぶ。

きっとそれは、永遠の決別になってしまう。

「頼んだ?」

「何を....だ?」

「私、頼んだ?」

「だから、」

「ドフィに、海に連れて行けと頼んだか?と聞いてるの」

「....」

「ねえ、わかる?私は行けるのよ、どんな場所でも
一人でも行けるの」

怒りを抑えながらの声色は少し上ずり、全く格好のつかない
ものだった。そうして、解かれていく自分の本心が自分の元から
逃げ出していく感覚に、思わず涙が出そうだった。

「教えたはずだ、俺達はずっと一緒だと。
俺はヴェガスからは出ない、だからお前も....だ」

「聞いたわ、はっきりと。そうよ、その意味がやっと分かったの。
理解したの」

「....何だ」

「ドフィはもう....」

「フィオナ!やめろ」

ドフラミンゴの怒声に、一瞬すくみあがったフィオナは言葉を飲み込んだ。
しかし、怒りは半分ほど解け出てしまっていた。

「違う、私が言いたいのは...」

フィオナは椅子を飛ばすほどに勢い良く立ち上がると、今度はまっすぐに
ボニータを睨みつけた。

「どうしてこのクソ女と結婚したの」

「ボンが説明しただろう」

「ドフィから説明されてない、まだ」

怒りに震えるフィオナを伺いながら、ドフラミンゴは
肩を震わせて笑った。

「嫉妬か」

「嫉妬?違うわ」

「答えは変わらねェよ。"必要"だったからだ」

「ドフィには必要ないでしょ、どう考えても」

「違う、俺達に"必要"だからだ」

未だ笑ったままのドフラミンゴに、フィオナの怒りは
すべて解き放たれた。

「何を言ってる?理解できるわけないじゃない!
少なくとも、私には、何の必要もない。必要ないのよ
あなたがそんなリングを指にはめたり、白いドレスを
この女に買ったり、そういうものを見る必要が私にはない!
いらないでしょ!」

「フィオナ....理解できなくていい、ただ、受け入れろ」

「まだ愛してる?」

「あァ?」

一番、言いたくなかった言葉だった。

一番、聞きたくない言葉を浴びせている
自分が心底、嫌で堪らなくなった。



一人で、どこまで行けるだろう。



彼はまだ、私を愛してくれているだろうか。


永遠の決別を覚悟しながら、彼女はそんなことを考えていた。


ヴェガスの夜は、彼女の嫌なことをすべて
吹き飛ばしてはくれなかった。







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