悪魔の包容は母の温もり

「来いといえば来ねェ、来るなと言えば来る。
 どんな天の邪鬼だ、鰐野郎」

「悪いな、俺は今メキシコから離れられねェんだ」

電話口に響く低音の往訪に、ドフラミンゴは眉間の皺を深めた。

ルールが狂った、いや狂わせたのは彼だが、
ドフラミンゴはクロコダイルをラスベガスへ呼びつけた。


対し、その知らせを直々に知らされているクロコダイルは
電話口のその声に、飽きれた表情で窓の外を眺めていた。

どうしてそのルールが破られたのか、ドフラミンゴに分からないことを
クロコダイルは幾分か理解していたのかもしれない。

窓の外には強い雨、そして窓を叩く。
つまり...そういうことだ。

クロコダイルはその話には、"乗らない"という結論をだし
受話器を置いた。

置いた受話器を見つめたまま、クロコダイルはぼんやりと
フィオナのことを思い出していた。

いい商売道具になると思っていた、道具になる、と。
しかし、この期に及んで、彼女は道具ではなく
まるで人間そのもののように思えた。


アリゾナ、フェニックスでの時間はまるでクロコダイルの人間性を少しだけ
変えたのかもしれない。彼は重い腰を上げた。

「ボス、どこへ?」
「ロスで待機だ、その前に...」

クロコダイルは重量感のある携帯電話を、無造作にダズに放り投げた。

「トラファルガーに連絡を、お望みの品はどうやら届けられそうにないと伝えろ」


ダズは無言で、クロコダイルを送り出すと手早く
マイアミのトラファルガーに連絡を入れた。




「それはどいういうことだ」
「俺はボスからの伝言を一語一句、違わず伝えただけだ」
「...チッ」



彼の望みの品は届かない、その知らせにローは納得がいかなかった。


「どういうことだ、あいつはもうすぐ...」
「次の女でも見つけたんじゃ?」

両手を翼に改造されたモネは、怒りに満ちた青年医の顔も
見ず、笑顔を浮かべた。

「こだわりはフィオナだけのはずだ、なのに...」

「嫉妬はみにくいわ、ロー...とにかく、彼がここに来ない以上...自分の身の安全だけを考えたほうがよさそうね」








季節は秋だった、肌寒さを感じる中
フィオナは一人、プールに沈んでいた。

ドフラミンゴの言った通り、この数日のあいだ彼はずっと屋敷に居た。

プールサイドのデッキチェアに腰掛けた彼は、フィオナをずっと見守っている。

「ドフィ」
「どうした」
「入らないの?」
「こんな時期にプールに入る馬鹿がいるか」

「そうね」

ドフラミンゴの言葉に少し首をかしげながら、フィオナは気のない同意を
示すとざばざばとプールから上がり、そのまま彼の上に身を投げ出した。

不意の腹部への衝撃に彼は息を漏らすと、彼女の顔にかかる髪をなで付け
その身を抱きしめる。

「水の中は気持ちいいわ」
「だろう...な」

「死ぬなら、水の中がいい」
「お前がそう望むなら、そうすればいい」

彼の体はまるで、火傷しそうなくらいに温かく感じた
そして彼女は、死人のように冷たかった


二階のリビングからは、プールがよく見える。
ボニータは、二人の姿を見ながら大きなため息をつき
そばのコーヒーカップに手をのばした。

遠巻きに見ても震えている彼女の姿は、どうみても中毒者の症状だった
フィオナと言葉をかわすことはなくとも、彼女の依存の度合いは加速している。

「さぞかし、楽しいでしょうね」

その日は、確実に近づいていた。





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