破滅を愛した男

温かい病床で、愛するものに見守られながら
または惜しまれながら、死ぬことなどは考えられなかった。

終着点を位置づけてしまえば、自ずと人としての
道など通れるわけがなく、通ろうとしてもそれは歩きにくいだけだ。

ボニータとの結婚式など何の幸せもなく、そこに自分の意図した
意味さえあればよかった。
知ってか知らずか、ボニータは幸せに包まれた花嫁の形相を
していた。
彼にとっては、虫酸の走るだけの様だ。

しかし、彼が彼自身の為に考えた最後の為にその日は我慢した。


もう慣れてしまった書類仕事に片をつけ
フィオナの香りを探して屋敷を彷徨った。

浴室で水中で寝ている人魚姫を叩き起こし、その泡だらけの顔を拭うと
やはりそれこそ愛するフィオナだと認識できる。

途端、笑顔を向けられればこの子の為になんでもしてやろうという気が起こるものだ。

「夢を、みた」
「どんなだ」
「ボニータを殺してしまう夢、ドキドキした」

「夢で留めておけ、ボニータは殺すな」
「どうして」


「...後々、必要になる」

「そう」

フィオナは少し残念そうに、笑顔で返事をするも、その表情は
沈黙の中で次第に曇っていった。

「どうして」

同じ質問を繰り返すその顔に、今度は別な意味が込められていることに
ドフラミンゴが気づかないわけがなかった。

「ボニータは、お前とは違う。彼女は世のため、人の為になる女だ。
世間的にも信頼され、平和を愛するような人間だ。
そういう人間が手中にいるということは、便利がいい...」

話の半分くらいで、フィオナはまたバスタブに潜り込んだ。

「聞いてんのか」

フィオナは、バスタブに沈んだまま目を閉じ、じっと眠りにつくようにして
しばらく上がってはこなかった。

「愛してる」

その言葉を、この長い間フィオナから聞いていなかった。
それは懇願にも似た音色だったのかもしれない、ドフラミンゴはよく
届かないように、しかしいつかその言葉が
もう一度彼女の口から聞けるように願いながらつぶやいていた。


その日は近い、そう思っていた。
ずっとフィオナと一緒に居られる日。






神が彼の願いを聞き入れざるをえなくなる日。




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