天井までの水

コルト・ダイアモンドバック 6インチ22口径
この日の為に部屋に飾られていたんだと確信が持てた。

ぶち破られたガラスケースで血を浴びたグリップがイヤラシく光る。
いつも以上に息が荒い、そう感じるとあたりは急に零下の世界に様変わり
したかのように、フィオナの息が白く、彼女の周りを漂う。

すべては整っている、あとは彼女の息だけだ。

彼女は通りなれた廊下を駆け抜け、愛するドフィの寝室の扉を開けた。

その部屋は、アジアのモダンリゾートを模したインテリアに作り替えられていた。
そんな部屋を、フィオナは見たことが無かった、その事実だけで
十分な吐き気と嫌悪に値する。

憎悪とはつまりこのことだ。
その憎悪は確信させる。

標的はここにいる...

視界はだんだんと狭く、そして焦点を一点に合わせ始めた。
普通ではない、彼女にとってこの動悸と脳を揺すぶるような緊張の感覚は
まるで体験したことのないことだった。
今から、ヒトを殺す。
過失的にそうしてしまった場合もあれば、意図的にそうしたこともあった。

この感覚は言葉で形容することができない。
新しい、としか。

ベッドで安らかに眠る赤毛の女の顔は、幸せに満ちていて
まるでフィオナをバカにしたかのような笑い顔に見えた。
平和、そのもの。

フィオナの煮えたぎる身体は増して熱を帯びた。
眠る彼女に馬乗りになり、銃口を額に押し付けた。

しかし、感情や行為に伴わず彼女の口を言葉が伝う
「ごめんなさい、ごめんなさい、....ごめんなさい」

涙が流れる、悔しさのあまり服が湿るほどに涙が溢れ出る。
迷いと、戸惑い、そして恐怖に歯が鳴り、血まみれのグリップは震えた。

殺さなくては、撃たなくては。

私の安全の為に、バンっ












「フィオナ」

「...なに」

「俺の話を、理解したか」

「...したわ」

「...上がれ」


悪夢の海から這い上がったフィオナを待っていたのは、キャンドルの暖かな
光に包まれたドフィと、鏡に映る貧相な自分の体だった。
ボンクレーがいつもの通りにセッティングしたバスルームは
いつにも増して、フィオナが好きなフローラルの香りが強い気がした。

大きなタオルとドフィに包まれたフィオナは、自分が心地よいと
感じるがままじっとしていた。

「わたしがどれだけ惨めかわかる?ドフィ」

「そのままその言葉をお前に返したいが、」

「私には、泣きながらヒトを殺すことぐらいしかできない」

「何もしなくていい、もうすぐ、ずっと俺と一緒だ」

「そう、もうすぐ...」

「・・・不満か」

「不満よ」

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