GO HOME

特有の赤い土の匂いと、湿気を含んだ冷たい空気が流れる。
まぎれも無い、ここが故郷だと嗅覚がそう脳に伝達する。

どんな屈強や切れ者でも、この感覚を支配することはできない。
その場所はもうすでに、母なる大地の腕の中なのだから。



トレーラーハウスを改築したようなドアの前で
クロコダイルは立ちすくみ、深呼吸をした。

何度かドアをノックしようとしたが、そもそもポケットから手を
出すことができずに、かれこれ1時間以上も同じ場所にいる。

家の中から物音が聞こえるたびに顔を上げるが、やはりそれ以上の行動が
できずにいた。
ありがたいことに、日が昇りきった午前8時ごろ
そのドアは自ら開け放たれた。

「......お、鰐」
「......あァ」

ドアから爆発するように現れた男は櫛を片手に歯ブラシを片手に
トランクス一枚の情けない姿でクロコダイルを見つめていた。

「親父に用か」
「まァ、...そんなところだ」

ドア一枚、それが開け放たれただけですべての世界が変わったような気がした。

クロコダイルは雰囲気に飲まれまいと、眉間に皺を寄せたまま
ゆっくりとステップを上がりサッチの後に続いた。

とにかく、この場所には野郎しかいない。わかりきっていたことだが
細かいところは乱雑な暮らしぶりをうかがわせるも、家としては申し分のない清潔感
に彼は改めて感心をした。

リビングを抜けた先、柱から垣間見える
見覚えと違和感の共存する、背中に眉をひそめた。

「ザマねェな...朝早くからエプロン着てサニーサイドアップ焼いてる
姿を拝むなんざ夢にも思ってなかったぜ、白ひげ」
「グラララ、文句があんなら食わせてやらねェぞ。さっさとテーブル片付けやがれ」

一段と低くくぐもったクロコダイルの声に、エドワードニューゲートは
調子を合わせたのか、もともとそうなのか、同じ調子の声で返した。

少しだけ心中に波風たたされたクロコダイルは、眉をしかめ
ダイニングテーブルに向き直った。
言われようにも、席につく気など毛頭なかった。

匂いにつられたように方々の部屋から集まる白ひげの息子たちは、
何の不思議もなくダイニングテーブルを囲み始める。
まるでそこにクロコダイルが、毎日いるかのようににすら錯覚させるほどに
口々に、特段に嫌悪の情念も愛情もなく声をかけるように。

「おお、来てたのか鰐。昨日ビスタがワシントンに帰ったところだ。
 逮捕されるところだったな。ッハッハッハ。
 あいつFBIの副長官になるんだぜ。」

イゾウはそういうと、長い髪を纏め上げながら席についた。

一等眠そうに席についたマルコは、昨年見たときよりもはげ上がっている。

「ほら、座れよ」

人一倍体のでかいジョズは、どう考えても狭すぎる自分の横の席を指さした。

「親父おれ卵嫌いだって言っただろ!」

「ペリーどこだ?」

「なんで起こしたんだよい...俺...今日休みのはずだよい」

「ミルクどこだ」

「俺の靴下片方知らねーか?」

止むことのない彼らの声でごったがえす食卓を見つめながら、
クロコダイルは諦めたかのようにコートを脱ぎジョズの隣に腰をおろした。


「で、なんの用だァ。
 放浪にも飽きちまったか、グララララ......」

白ひげの一言に、うなづくことも否定もせぬまま、
ノックを躊躇したように、スプーンにのせたマッシュポテトがなかなか口に運べない。

もういい歳である、素直さなんてなんの価値もない。
ただ、何十年ぶりに訪れたこの場所は誰かを取り残したり
孤独を感じさせる暇はないのだ。


少なくともクロコダイルにとって

本当は、ここへ理由などないのだ。





"This is your home whenever you coming back"

食事を終えた席で不意にささやかれた声に、彼は小さく頷いた。

この幸せを掴むことのできないジョーカーが
至極間抜けだと、彼は感じた。

もうすぐ、自分の時代が終わるだろう。
白ひげの時代が終わったように、
こないだ会ったゾロや、ここにいるハルタみたいな
連中の時代だ。

そうなったときに、あの間抜けが間抜けのままで終わるのか。
少し手を貸し手やろうか。


「ハルタ」


ぶつくさと文句をいいながら食事を終え、髪も整えずに
家を出ようとするハルタの首根っこを捕まえた。


「なんだよ、離せっ」
「おまえ、将来何になるんだ」


「...親父みたいな男だ」


「上等だ、クハハハ」


世界ではなく、国でもなく、
未来の街の英雄が、朝の51番通りを駆けて行く。


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