白い夢、青い涙

「脱ぎなさい」


部屋に入ったボンクレーが見たものは、長いベールを絡ませながらも
美しく着られたウェディングドレス姿のフィオナだった。


クローゼットの大鏡の前で腰に手を当て、右に回り左に回る
その少女はあまりにも幼すぎる。
丈に過不足がなくとも、胸のあたりは心許ない様子で、それでも
体に合わせようと持ち上げられたそのシルクの白が、あまりにも悲しかった。

いつもの様子で、へらりと
「これ、私のじゃないの?」
そんな風に切り返してくれたらば、どんなに楽だったろう。

フィオナはちらりとボンクレーを見やると、また視線を鏡に戻し
自分では捌ききれないベールをはためかせた。


あなたのじゃない


その一言はどうしても言えなかった。


ボンクレーにとって、自分の行動のひとつひとつは常に彼らに
評価をされ、何かを損なえば命すら落としかねない。
彼の慎重さは狡猾とも言えるが完璧であった、この時までは。

見たくもない現実、極悪非道の世界に身を置いてしまった自分
を悔いているのは確かだが、どうしてだろう、あのジョーカーと
このフィオナからは離れられない何かがあった。

ボンクレーは出せない言葉を飲み込むと、フィオナの視界を遮り
彼女の両手を取った。

フィオナはじっとボンクレーをみつめ、そのまなざしの厳しさに
思わず身をすくめた。
やがてドレスを脱ぎ散らかすと、ため息をついてベッドに座り込み
主を失ったように倒れ込んだドレスを見て、涙を流した。


ボンクレーはドレスをその重みに合った重厚なハンガーにかけると
既に壊されている鍵つきのクローゼットにしまい込み、またフィオナのそばに駆け寄った。

ベッドシーツに散らばったアクアマリンを拾い上げると
まるで小石を扱うようにバラバラとサイドテーブルの上の灰皿に落とし
フィオナの手を取る。

せめてもの手のぬくもりで、この痛々しい姿の娘を癒してやることはできないか。

安直だが、心は素直に体を行動させた。



「フィオナ、あなたの聞きたくない話をするわ。」

未だ、目に涙を浮かべたフィオナは意外にも素直に
首を縦に振った。


素直さの裏に見え隠れする、彼女の変化に
ボンクレーの歯が震え、次の言葉がなかなか出てこなかった。


フィオナの呼吸を読み、フィオナの脈を感じ
そしてようやく、自分の呼吸も落ち着いて行くのを確認する。


「ドフィは明日、ボニータと結婚する。」

「結婚...」


「みんな口止めされてた。でもあなたは聞かなかった、誰にも。
 泣いてるってことは、わかってるってことでしょ。
 それを悲しいと、思ってるってことでしょ」

「そうかもしれない」

「ボニータと結婚することによって、ドンキホーテの姓は守られる。
 そうすれば、あなたを守る金も、力も、時間も、もっと約束されたものになる。
 世間の信頼、体裁が守られる。ドフィがどこで何をしようと、すべてはボニータ
 の存在があれば、自由になる。
 ドフィはまた、あのコートを着て高笑いしていられる、そして...」

ボンクレーはフィオナの頬を撫で、その表情に見入ったとき
自分すら泣きそうになった。

その現実は、あまりにも残酷だった。

「ドフィはずっと、あなたの隣にいられるわ」

フィオナは、言葉のひとつひとつを小さな頷きと光のない眼で聞いていた。


トニーが処刑されるのは間違っていると思った。
そしてそれと同等に、ドフラミンゴがボニータという女と結婚するのも
間違っていると思った。

しかし、隣でドフィが自分の体を抱いて微笑む
するとどうだろう
自分の想いなど、排水溝に流れて行ってしまうような気分になる。


「間違ってる...」


気づくのが遅すぎた自分に、歯を食いしばり
フィオナは言葉を捻り出した。


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