Run baby run

その顔は何?トニー。


珍しくその日、ドフラミンゴはフィオナに服の色を指定してきた。
ボンクレーは車を走らせ、フィオナを連れ回して身の丈に合ったワンピースに
つば広にサンハット、ピンヒールのパンプスを買いそろえた。


すべて黒だ。


そうして迎えた午後5時、二人はディナーに出かける様子で
リムジンの最後部に座る。

二人は手を握り合ったまま、流れ行くヴェガスの景色を眺めた。


到着した場所にフィオナは見覚えがなかった。

どのくらい車に乗っていたかはわからなかったが、そこはネバダのどこかで
あることだけはぼんやりと頭に浮かぶ。

重厚な門に閉ざされたその建物に、招き入れられたものの
今日時間をかけて用意をしたこのシャネルのワンピースは場違いであること
くらいはよく理解ができた。
手を握って歩くドフラミンゴのブリオーニのスーツもまた、その場所には
不釣り合いだ。

小部屋の中に入れば、外の闇よりもさらに暗いように感じられ
中には、この日この場所のために集まった面々で埋まりつつあった。

見覚えのない人の渦の中、その場に頼れるのがドフラミンゴだけと感じた
瞬間、彼の表情をかいま見ようと少し背伸びをした。
しかし、周囲から感じられる冷たい視線や雑音にふとその視線を外へ向けた。

泣くものもあれば、あたりをきょろきょろと見回したかと思うと
手元のメモに沈むような男、みなバラバラだ。
揃いも揃って浮いているフィオナとドフラミンゴは、しどろもどろに
案内をする刑務官の指差す最後方の席についた。

この部屋には小さな裸電球がひとつ、天井から吊り下がっている。
座った目線の正面には窓があり、それは内側からカーテンでしきられていた。

ドフラミンゴは今日、家を出るときからフィオナの手を片時も離さなかった。
フィオナもそれにこたえるように、その手を握り返していた。
そうしていると、二人は会話をするよりも深くわかり合える。


カーテンが開け放たれた。
窓の向こうにいるのは、トニーである。

己の家族の為、ドフラミンゴの為に、フィオナの為に
その生涯をこんな汚い小部屋で終えようというのだ。

ドフラミンゴはまっすぐにトニーを見つめながら、フィオナの腰に腕を回し
ぐっと抱き寄せた。
フィオナは両手をドフラミンゴの手のひらに乗せたまま、これから
目の前のトニーに起こることを脳裏に浮かべ、青ざめた。


一体、何人の人間が死ぬところをこの目で見ただろうか
しかし、怒りや悲しみがこみ上げるのはこのときが初めてだった。
そして恐怖の感情に、次第に歯が音をたてて震え始めた。

冷ややかになりゆく手の温度を感じたのか、ドフラミンゴはフィオナが隠れるほどに
抱き寄せ、頭を何度か撫でた。

トニーは
俺とお前の為に
死ぬんだ


しかたのないことなんだ



フィオナは納得がいかなかった。
やがて、運ばれて来た電気を流すヘルメットを被された瞬間
トニーはとたんに顔を歪め、涙を流し、何かを大声で叫び始めた。

順を追って淡々と、トニーの命が奪われ行く様を傍観する、
その自分の中に、今まで感じたことのない恐怖を感じた。

周囲にはうめき声が渦巻いていた。

ドフラミンゴは興奮の絶頂にいた。

快楽と恐怖が入り交じる、絵にもかけない
興奮の中だ。


まるで地が揺れるような、断末魔の叫び
窓を割るような悲鳴の中

トニーが白目を剥きながら震えているのが見えた。




すり寄ってくる唇の感触に振り向いたフィオナは
ドフラミンゴの目を見つめ、そして唇を重ねた。
いつも以上に、彼の生気が色めいていた。

ふと唇が離れたところで、小さく彼の名前を呼ぶも
彼がその口づけをやめることはない。


ドフラミンゴは、なんの遠慮もなく少し乱暴にフィオナの唇をこじ開け
長い舌をねじ込ませ、あたたかいフィオナ吸い付くすように
キスをした。

周囲の雑音のせいで、誰も彼らに振り返ることはなかった。
だが、窓の向こうトニーは確実に彼らの存在を感じていただろう。

行為の温度の差に、フィオナの涙はこぼれこぼれそうになった。
叫びながら死に行くトニーを横目に、私たちは愛し合っている。

私たちは異常ね、ドフィ。


そう言ったらどうなるだろうか
彼はきっと否定するだろう。
これが自分たちの世界だと、そう言うんだろう。

フィオナは、自分が描いた幸せと似て非なる世界
そこに自分が生きているんだと強く感じた。
しかし、ドフラミンゴはここまで思い悩んだ二人の
幸せな世界の糸口を掴んだと確信した。

二人は見つめ合い、互いの温度の差を感じながらも
愛し合わずにはいられないといった様子だった。


最後方で立っていた刑務官は、そのすべての光景、事象に耐えきれず
その場で嘔吐した。

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