脈打つ心

ピンクの怪獣が着ていたコートを抱きしめて
フィオナはベッドに身を横たえていた。

眠ってはいないだろう、そう彼は思いながら
ドアによりかかり、その様子を眺めていた。


早朝の5時、朝日が昇るのを渋るかのように、
空は群青を掴んで離さない。

寝返りを打ち、自分を見つめる瞳に吸い込まれるように
ドフラミンゴはベッドに膝をついた。

モノも言わぬその瞳は、あの日から変わらぬ愛情に満ちている。
何を言わずとも、彼の顔にも笑みが浮かんだ。


「おかえり......フィオナ」

そういって、彼女の体を両腕で包み込む。
彼に何か、返さなければ。
その言葉は締め上げられるような感覚に遮られ
次第に腕の感覚が消えてしまうようにフィオナは感じた。

徐々に強まる彼の腕の力は、女を抱きしめるにはあまりにも強かった。

「...ド...フィ...」

絞り出した声に、彼の耳元の髪がかすかに揺れる。

「平和は作った、だが俺たちの生きる世界とは違うんだ。
 いいか、平和な世界には価値がねェ。
 フィオナ、お前を平和に貪られても幸せな愚者にしたくねェんだ。
 お前のために俺が作ってやれるのはせいぜい安全な世界だ。
 そのためには莫大な金と頭数が必要になる。
 そのためには、俺はまたそのコートを着なくちゃならねェ。
 また、壊さなきゃいけねェんだ」


声の出ないフィオナをさらに締め上げるように、腕の力が強まる。

「フィオナ、平和ってのはな」

平和とは何

「クソだ」

フィオナは力を振り絞り、胸に埋められた顔を上げた。
覗き込む彼の顔に、先ほどの笑みとは違う、表情が浮かんでいた。

「ドフィ、苦しいよ」


「壊したくねェんだ。
 俺も、お前も
 どうすればいい」


彼は彼女の瞳に海を思い浮かべていた。
それが、フィオナのいるべき場所であり
ここではないのだと感じていた。


「この身が朽ち果てるまで、抱き合うの。
 呼吸が止まって、腐って、骨だけになって。
 それまでこのままずっと一緒にいるの。
 それでいいじゃない。
 最初からそれでよかったのに。
 いままで幸せなことや、楽しいことなんてなかったじゃない。
 このままでいいよ。
 こんなに綺麗な空の色の中で、私とドフィと二人だけで......」

「覚えてねェのか」

「なにを」

「俺は全部、覚えてる」


長い、長いキスをして。
彼は眼を閉じた。





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