芝生の鰐

ソファの背からぬっと生えたような緑の頭に
クロコダイルはいつぞや味わった甘い汁の味を
思い出すように、にんまりと笑った。

「なあゾロ。お前、いくつになる」
「あん?」
「19、いや20か」
「おめーにゃ関係ねぇ。酒を咎めるならジンベイに言ってくれ、
 俺は疲れてんだ」
「仕事か、どこへ行ってた」

クロコダイルは馴れ馴れしく、ゾロの頭を撫でると
ソファの中央を陣取っていたゾロに、横へ詰めるように促した。
そのニヤケ顔は、弱者を甚振り殺し喰らう
その楽しみに飢えて飢えて飢えぬいて
ようやっとありついた餌にヨダレを垂らす鰐そのものだ。

怯え逃げ惑う姿が見たくて仕方がないのだ。

「ヴェガスだ」
「そうか、楽しんできたか」
「まあな」

当たり障りない返しをするゾロに、クロコダイルは苛立ちを覚え、
少しだけ距離を取り、深くソファに沈みこんだ。

ゾロもゾロで、この悪人づらを見続けるのが癪で、立ち上がると
キッチンへと消えていった。

男とは不思議なモノで、無意識のうちに相手のプライドを
傷つけることにより己のプライドを守り、さらに強固なものへと
育てる。体が戦うことを好んでいても、心は繊細なものだ。


「何の用じゃ、うちは集会所じゃないんだが」

ジンベイはみすぼらしい継ぎはぎだらけのガウンを
羽織りクロコダイルの横に座り、新聞を広げた。

時刻は午前7時、来訪者たちが室内をうろうろするには
全く持っておかしな時間である。
皆が皆、そろいも揃って夜通し何か悪さをしていたような
面構えだ。だからこそ細かな点は許せる時間でもある。

「あのガキ、何故ヴェガスへ行っていたんだ。
……いや、聞く間でもねェか。ジョーカーはどうしてる」

「聞いて驚け、ウェディングドレスだ」

「……あァ?」

「ロス在住の新鋭デザイナーの最新のウェディングドレスを
届けさせたんだ。何がなんだか、わしにもわからん」

夜通しミホークの相手をしながら、車を走らせた身に
この手の話は最高に堪えた。
天井を仰ぎ見て尚も収まらぬ、鼻血が出そうな気配を
鼻腔の奥に押しとどめながら、クロコダイルは言葉をひねり出す。

「……サイズは」
「なんじゃ、お前さんも必要なのか」
「……ジョークだ」

無作法にも鼻をすすると、クロコダイルは何かを
思いついたかのようにジンベイのデスクへ向かい
断りもなく電話をダイヤルし始めた。

朝のさわやかな、潮風がやさしく流れる。
どうやらゾロは、もう出て行ったようだった。


クロコダイルは、金の匂いを嗅ぎつけた。
とても、いいにおいだった。
電話の相手方にも、冒頭の鼻歌ははっきりと聞き取れていた。


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