愛と云う病

もう2ヶ月帰ってこなかった。
愛しい彼はどこで何をしているのだろう。

冷め切った仲を無視していれば、上辺だけ取り繕っておけば
2ヶ月という期間など何ら長くもない時間だった。
突然ふと思い出すことがあっても、それは一瞬の出来事であって
それ以上でもそれ以下でもない
いずれは流れ去っていく時間の一つなのだ。

周囲にはいつでも人がいる
時にそれは入れ替わってもフィオナの知るところではない。
個体ひとつひとつを丹念に観察する必要はない。

何かが居る、それこそが
ドフラミンゴがフィオナへの愛を忘れてはいないという
証拠、そうフィオナは思った。

そうして離れていると、今度は近づきたい
会いたいという感情すら不自然に思える。
だからこそ、流れ去った2ヶ月も、これから訪れる永遠も
『時間』の一幕へと昇華されていくのだ。

変わらない日々がただ、続いていくだけだった。

直接に耳には入ってこないものの、ドフラミンゴが
何者かと婚約をしたということはフィオナの耳にも届いていた。

自分がその立場になるはずだった、そう思うこともあるのだが
奇妙なことに憎しみや恨みは抱かず、むしろその女に親愛を抱く。





「面白いことが起こると思ったんだがな」
「面白いこと?」

ヴェガスへ入ろうとした途端に、州境付近に待機中のパトカーに止められた。
クロコダイルはミホークを助手席に乗せ、仕方が無くロスへと引き返している。


警官にテールランプを破壊された。
容疑者確保の常套手段だが、なぜそうされるのか
クロコダイルには見当もつかなかった。

今のところ指名手配されているのはミホークだが、警官があからさまな
敵意をむき出したのはクロコダイルに対してだった。

「整備不良の車をネバダ州で走行させるわけにはいかない。
引き返して修理するように。」

そう言われ、合点が行った。
未だ、ドフラミンゴはフィオナを危険から守る為
クロコダイル他、あの日あの場所にいたメンバーから遠ざけている。
今となって、本格的に。

クロコダイルは、ネバダに入ることすらできないのだ。
かつて、自分の王国だった場所に、王は帰ることができない。
久しぶりに仕込んだ、祭の様子を静かに見物したかっただけ、
そんな言い訳が、公務員に通じることもないだろう。

大人しく引き返すことに決めた。

「鷹の目、俺たちもだいぶ現実離れしているが
あいつらはもっと酷い、そう思わねェか」
「その現実というのが、彼らにとっては耐え難い地獄だ
だが、ドフィはあえてそれを望んだ。そこに見出せるものがあるんだろう」
「二度と現実には戻れねェよ。ジョーカーには一番の屈辱だな。
だが、それでもフィオナが離れていかねェのは計算外だ」

「それが愛だ」

「それで納得できるお前も、相当だな」
「して、面白いこととは何だ」

「クハハハ、わからねェか。フィオナがボニータを殺すか
それともジョーカーを殺すか、俺はそう考えてた。
前者なら、あいつは更にジャンキーのフィオナに惚れ込んで
またジョーカーになるだろう。後者なら邪魔者が消えて万々歳。
また俺はヴェガスを手に入れられる、フィオナごとな」

「結局は故郷に帰りたい、小僧の戯言だな
フィオナになんぞ興味はなかろう」

「俺が故郷に帰れるなら、あいつも帰れる
みんなハッピーだ。そうだろう、ハッピートゥゲザーだ」

「タートルズは好きだが、その現実的な幸福は
ドフィにとってもフィオナにとっても屈辱であり、地獄なのだ」

「つまり……」


クロコダイルはビーチ沿いの住宅街についたところで
車を停め、エンジンを切ると息をついてミホークに振り返る。

「病気だな」
「愛だ」

クロコダイルは未だ納得がいかない様子で首をかしげながら
車から降りると、開けっ放しの窓から首を突っ込み
表情に変化のないミホークを睨みつけた。


「二度と俺の前で、その言葉を口にするな」










「お願いです、もう二度と悪いことはしませんからあの人を助けて下さい
私の命はいりません、私の頭の中の悪魔を追い払って下さいお願いします!!」


泣きながら、フィオナは自分の寝言で目を覚ました。
尋常じゃない量の汗をかいている、喉はカラカラ、おまけに
自分の下半身がずしりと重く感じ、なおかつ熱を帯びていて
ジンジンとしびれている。

自分の口から出た言葉をはっきりと覚えていた、だが理由は
まったくわからなかった。
頭を渦巻いたのは、たったひとつ
ドフィに愛してると伝えなくては、これだけだった。





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