ガラス球の中の人生は

聡明さは仮面
その中身はあどけなさの残る女

女の匂い
女の形
女の音がする

いつになく、口角を上げて笑っていたかもしれない
でもどうしてだろう、数時間後に自分がどんな気持ちに
なっているかなんて、容易く想像ができた。

ヴェガスを一望できるオフィスが暗くて
ネオンの色が目に突き刺さる
目を覆い隠すには、都合の言い口実だ。

「怖いか」

ドフラミンゴがそう問うた相手は、赤毛のボニータという女。
暗闇のオフィスに呼びたてられた、堅物の女は何を思い、何を言うのだろう
そんなことはどうでもいい、この女はいずれドンキホーテの姓を名乗り
自分が築いてきた、真っ白な業績を真っ白なまま
見栄えのいいショーケースに綺麗に収めてくれるのだから。

「、ええ、少しね」

質のよい革張りのソファーによく似合う、美しい流線型の脚のテーブル
その上に乗せられた、燭台そしてキャンドル。

振り向き、手を差し出せば
女のぬくもりが即座に伝わってきた。

怖いわりに躊躇いはないのか

それとも怖いと感じているのは自分自身なのか。


「どうして急にこんなことを?そういうタイプには見えなかったわ」

「フッフッフ。驚いたか」
「ええ、とっても」

上着をソファーにかけ、露となった肩を蝋燭の火が照らし出す。
その気になった彼女は、もう口を開けばベラベラと思ったことを
節操もなく話し出しそうだ。

どうせ話の結末は見えている。
ドフラミンゴが体験し得なかった人生を
彼女は送ってきた、というのだろう。

何もかもが、決められた形をした思い出
決して壊れることはないと信じてやまない

まるでガラス球の中を生きる
平和な人生

時々乾きを癒すために口付けられる
ワインの飲み口に、微かに口紅がついていた。

「ああ、汚ねェ」

ふと口から漏れたその言葉は、きっと彼女が話を始めて
1時間近く経ったころだったのだろう。
声を出した人形を見るように、驚いた様子で彼女は
自分の膝を叩いた。

「そうでしょ?あなたもそう思う?」

どうやら彼女は、高校時代に男の子を奪い合った
思い出話をしていたようだった、がドフラミンゴは特に自分の
発言を訂正する気も起きなかった。

また話を始めるだろうその唇を見つめ、距離を縮め、顔に触れた

蝋燭の火に揺れる彼女の表情が、わずかに紅潮している
そして自分の顔は青ざめているんだろう

数時間前からわかっていたことだった。


まるでガラス球を銜えさせられたまま
キスをするような感覚は、二度と味わいたくないものだった。


人間からはじき出された平和、自分はそれを
壊すまいと生きる

壊した結果が
フィオナだった。


平和以上に怖いものは無いと
フィオナに教えてやろうと、そう思った。




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