慈悲

「ドフィならどうする」

「首をはねるな」


薄暗い部屋で、二人は安っぽい椅子を並べて座った。

電球は傘も付けられずに
揺れて、揺れて、揺れて、その動きをなかなか止めない。

時折見える赤黒い男の顔が見える度
その男はまた彼らを見て顔を歪め、涙を浮かべた。

彼らの、堪らなく楽しそうなその顔に
死をイメージした。


「だ、だから謝ってるだろ?ほんの冗談のつもりだったんだ。
 なァ、だから...頼む、このことは誰にも言わねェ。
 見逃してくれよ!」

「もう遅い、こいつが市場に出回った以上」

「まだ、...まだ売ってねェよ!」

「最も重い罪は何だかわかるか」

「だから、それはっ!」


椅子ごとにじり寄ってくるドフラミンゴに、男は覚悟した。

終わりだと。

「うちのフィオナを泣かせたことだ。
 俺に言葉が通じると思うか?
 分かるよな。
 今の俺に謝罪の言葉も通じねェよ。
 あの世でせいぜい反省することだ」



言葉半ばで、彼の首は身体を残し
後ろに転げ落ちた。


フィオナは笑みを浮かべ、脚を組み直すと
パチパチと手を叩いた。

「お見事」

「お前も、もう泣くな。
 こんな面倒はごめんだからな」

「でも愛を感じた」

「あァ?」

「愛してる」


虚ろでもその瞳に嘘が無いことに、
ドフラミンゴはため息をつく。

今、この瞬間に彼女は最も自分に近い場所にいる
そう感じた。
その言葉をこの先何度も貰えるのなら
これの繰り返しでいいのかもしれない。



「愛してる」



薄い扉の外で全てを聞いていたボンクレーは歯を震わせていた。
いずれ自分にも同じ終わりが来る予感がした。

とんでもないところへ、雇われたものだ。

始まりを悔いるなら、悔いて
終わりを変えれば良い。

「オカマを甘く見ないことね」

そう呟き、部屋から遠のいた。



『マトモな商売』は順調だった。
ドフラミンゴは昼間、スーツを着込んで
沈没寸前だったリゾートをいくつも救った。
かつての悪名の恩恵も多少あったものの
昼の間は、かつてフィオナと出会った頃の理想に
ひた走っていた。
普通の幸せ
それに向かっていると、実感ができた。


しかし、夜、家に帰れば
必ずフィオナが血なまぐさい何かを持って待っている。

どうして昼間できることを夜になったらできないのかと
愛おしい肩を抱きながら、ドフラミンゴは思った。



フィオナは自分が人間でないことにとっくに気づいていた。
だから、自分はドフラミンゴの理想にはほど遠いのだと。

普通の幸せ
それに向かって走っていると信じた。

手当たり次第に、自分たちを幸せにするものには
必要性を感じ、全てを行動に移した。


幸せを知らない二人には
あまりにも残酷な現実だったことを

二人が知ることはなかった。




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