道標

レインボーカラーのアフロのウィッグを被った男は
とても口が上手かった。

子供だろうと、大人だろうと
ロマンチストだろうと、ニヒリストだろうと
きっと彼の派手な様子と甲高い、時には
渋い声に聞き入ったことだろう。

きっと大統領にだってなれるだろう。

そう、きっとマイクも使わずに
ホワイトハウスで会見ができる。

現にそう、こんな騒がしいクラブの中でさえ
彼の声は、フィオナの脳をかき乱すほどに響いた。

「今までは同じ純度で400ドル
もってせいぜい4時間ってとこ。
ところが
ドン!
純度は保ったままで200ドル、
新しい製法で効き目はなんと!
はいドラムロール!」


指差されたフィオナは、しかたがなく
両手に見えないドラムスティックを持ち
見えないスネアをロールした。

彼の口からは、見えないけども確かに聞こえる
強烈なロールが聞こえる。

「ダンっ!
なんと効き目は36時間!
メタンフェタミンの使い方をちょっと
変えるだけだったのよ!
これ、たった一粒で!」


眼球すれすれまでに差し出された錠剤には
ハートマークが刻まれていた。
少しだけ、苦々しい匂いが漂ってくるのを
しかめツラで表したフィオナに、男はさっと錠剤を握り
黒い肌が際立たせる金の歯をむき出して笑ってみせた。


「それで、一体どうなるの?ソレが効いたら」

乗り気では無い様子のフィオナに男が怯むことはなかった。

「じゃあ聞くけど、あんた、何か欲しいものはないの」

「欲しいもの?」

「そよ、権力?金?男?それとも女?」

咄嗟、視線を伏せ息をついたフィオナは
腕を組んで、にやりと笑い取り巻きの連中を見回した。

「私が持ってないものって何?女だけかなァ」

そして男に向き直り得意気に見下した。

「だから要らない」



「ブンっ!
そりゃあ楽しくないじゃないのベイビー?
あんたの手に持ってるものは何?
確かに誰よりも多くのものを持ってるわね。
見える見える見える見える、でも!

それが全てなの?
あなたは知らない!でしょ。
嘆かわしいわね、ジーザスクライスト
さあ、ご覧なさい、このハートは、鼓動している」


男は自分の指を舐め、そこに錠剤を貼り付け
またフィオナの眼前に差し出した。


「最高の視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚
あんた、まだ持ってないわよ。
最高の、」



その顔はグリーンのライトで闇に浮かぶように
不気味で、そして芸術的だった。
フィオナのあんぐりと空いた口
舌の上で、ハートが鼓動していた。

「最高の愛
 最高のセックス
 最高の、エクスタシー」


次には金の歯が、闇に浮かび
男の口から放たれビートが身体をくすぐるような感覚。


「サービスよ、それはあげるわ」



そう、彼は大統領になれただろう。
フィオナも、そうなれる気がした。


だがしかし、どう考えても
そのドラッグが無ければ、無理だった。


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