透けて見える

若い頃という言葉の指すものがティーンエイジャーや
その後10年近くまでの事ならドフラミンゴは自身の若い頃
の思い出なんてとっくに忘れていただろう。
時々ぽつりぽつりと現れる奴が、”おのれドフラミンゴ、殺してやる”
と彼に近づき、そのムダな努力を無碍に粉砕しきった後で
ああ、そんなこともあったなと呟く。
例え本当に覚えていなくても、そう言ってやるのが人の優しさ
だと思っていた、そして実際は殆どの事を覚えていない。

人から恨まれることは思い出じゃなかった。
それよりも、飼っていた犬に子犬が産まれたとか
遠くから投げたゴミが一発でゴミ箱に入ったとか
くだらなくてもそんな思い出をよく覚えている。

それが幸せに生きる秘訣だと誰かが言っていた。
誰だったろう。
思い出せないということは、その人物もドフラミンゴを
恨みながら死んでいったんだろう。

自分の記憶容量に問題があるわけではないのだが
幸せを追求するあまり、その忘れっぽさは
周囲からは冷酷非道ともてはやされるわけで、
それすらも忘れる対象になるものだから
ドフラミンゴの脳内は忘却に忘却を塗り重ねられていき
今ではピンク色のフィオナの事で頭がいっぱいなのだ。


サクラ色というピンクの色がいいと思っていたのだが
最近はめっきりサーモンピンクのフィオナに
若さを感じた。
感じれば感じるほどに、自分がとても老いた男に思えた。



自分の若い頃は、どんな人間だったのか
ふと頭に浮かんだ疑問は巨大な宇宙をもって彼にのしかかり
心地よい重圧で彼を眠りへといざなう。



「ドフィ?」


声色、微かな香水の匂い、髪の質感、肌の温度
まるでフィオナの頭の中が透けて見える気分だった。


「寝ちゃったの?」


無知な彼女が早々に結論付けたところで、ドフラミンゴは少し
ほっとした。
このまま彼女を抱いて眠りに落ちるのがどれほど幸せなことなのか
誰か自分以外にわかってくれる人はいないのだろうか。


そうだ、鷹の目に電話をしよう。
だが明日にしよう。
この瞬間を逃したくないから。



若き血のたぎる特有のピンク色の脳内が
透けて見えて、気分が悪い。
対照的に自分の脳はカビの生えた青緑だ

なんてセンスのねぇ組み合わせだ。






心の中で、フィオナに謝ったところで
ふつりと甘い飴を舐めるような夢をみていた。









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