月から来た男

フィオナはドフラミンゴの短髪の中から、ブロンドとは
微妙に異なる毛をみつけては抜いた。

それは眠っているときでも、食事をしているときでも容赦はなく
彼女の執拗なまでの白髪撲滅作戦は続いた。

もちろん、元々が色素の薄い毛色なので
間違って金髪を抜いてしまうこともあるが
誰がゴミ箱へ旅立った毛の色など心配するであろう。

ドフラミンゴは微々たる痛みに、小さな唸り声で答えた。



その距離に、彼女は大変に満足していた。
いつでも彼の背後からまとわりついては
よく刈られた頭髪に頬をよせ、香ばしいとも汗臭いとも
何とも言えない匂いで肺を満たし、満足げに首元に息を吹く。



「今朝から何本抜いた、フィオナ。もうさすがにねェだろ」

「自分じゃ見えないでしょ」

「フッフッフ。そりゃそうだ……」




ドフラミンゴは書斎の机上で仰々しく胡坐をかき
壁に貼られた異常なまでに大きな地図を仰ぎ見た。

地図に描かれたものはネバダ州
その大半が砂漠

それを見ただけでこの屋敷を使っていた
あのクロコダイルを思い出し、更に口角を上げた。



「まるで星座だな」

「月はどれ?」

「月か……この地図にはねェな」



その地図上の砂漠に何本もの押しピンが込められていた。
暗がりの弱い光の中、必死に光るピンのそれは星を思わせる。



「フィオナ、砂漠は好きか」

「キライ」

「きっと好きになるだろうよ、フッフッフ」




彼の胡坐の上にさっと座り、彼と同じものを見ながら
フィオナは彼の言った通りに、砂漠が好きになる気がした。



その地図が、宝の地図に見えた。
そう思うと、この地図にない月とは自分のはるか後方にあって
ドフラミンゴは月から来た男に思えた。


そのくらい、彼の一言一言は
フィオナにとっては夢の詰まった言葉だった。



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