危険信号

冷たい鉄で覆われたその建物に入るべきは自分だったかもしれない。

いつになく心臓を握られたように、気弱な男
そんなお面をかぶったドフラミンゴはたった一人、そのゲートを潜った。



「話せ、何があったのか。」

「あァ...。」


強化防弾ガラス越しに受話器を通じて話すその相手は
背中を丸めて、声を細めた。
ジョーカーを辞める、その言葉に耳も貸さずに
最後まで彼の盾になると意気込み、マイアミからついて来た
哀れな男だった。

「ある女が、彼女に近寄り・・・アンタの事を聞いてた。
彼女はアンタの女なのか、とな。」

「それで、」

「フィオ...」

ガシャンと大きな音を立てて、目の前のガラスが揺れた。
大きな図体とは似つかわしくないほどに、ジョーカーの
頭は繊細で、この場所で音として流れざる言葉への警戒心
はとてつもなかった。

気弱な男の仮面の下は、やはりかつての実力者
を思い起させる。

向こう側でオレンジのつなぎを着せられた男の
小さな悲鳴をだれも拾うことはなかったものの、
そばに立つ番兵も、そのおどろおどろしい雰囲気に見て見ぬ
ふりをしながら、背筋を再び伸ばす。


犯罪者との面会とは、犯罪者のボロを拾うために
あるもので、決して弱い立場の市民のためにあるものではないのだ。


「んっ……彼女は、あまりピンときてなかったみてェで、
なんせ、アンタの通り名しか女は出さなかったからな。
あれこれと、アンタ……の、今までの話だとか
最高の女としか寝ない男だとか、いずれ世界はあの男のものだとか
……彼女は黙ってそれを聞いてた。
そしてようやく気付いたらしいんだ、女の言う男が……」


「それで、」


「その女は、えっと……
自分が……彼の女になると、そう言った」



「……それで」


「それでも何も!察しがつくだろ、後は!
彼女が怒って、店を出た女を殴り始めたんだ!止めても聞きもしなかった
すごい力で、原型が留められねェくらいに!」


「...それで」


「はァ...世話になったアンタの為だ、警察には俺が殴ったと説明した」


「そうか...。よくやったトニー。
お前の母親と家族、お前が出てくるまで不自由しねェように
配慮してやる」


「ド……ドフィ!」


「あァ?」


「俺から言っちゃなんだが、あの子は危ねェ!アンタだって殺され...」


鼻をついた臭いは、刑務所の汗臭さとは違う
まるで花畑のような香だった。

眼前に迫る彼の顔は、男1人震え上がらせるには充分過ぎる
恐怖だった。


「心配、いらねェよ。アイシテルからな……」



被ってきた面を忘れて帰るように、ドフラミンゴは
悠然と、かつてのジョーカーを思い起させるような足取りで
刑務所を後にした。




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