俺じゃなかった

一目みた瞬間、彼に浮かんだ考えはほとほと狂っていた。

たかがそれだけの為か、その為に全てを捨てられる程に

彼はバカだった。


この子にはピンクのドレスが似合うだろう。


その瞬間、彼の生きて来た色のない世界が
溶け出し、築いた形は脆く崩れ去った。

あと少しで、この世界の全てを掌握することができた。
歪みきった世界になじむように歪んで行く自分を
真っすぐに叩き直すには、このタイミングしかない。

彼は、道化である必要はなかった。


「愛してる」


分厚いガラス越しにこんな小声は届くはずはない。

理屈や説明などいらないだろう、フィオナ。





彼女に似合う、ピンクのドレスを買うため。
キレイな金で買うために

彼はピンクのコートを脱いだ

ピンクが似合うのは、俺じゃない。







「ねぇ、日曜日さぁ」

「あァ?」

「ずっと家にいようよ」


「……バカ言え、まだまだやることがあるんだ」






俺じゃなかった。





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