The Los Angels02

「これ全部、持ってる現金、全部。」


売人は逸早く、ジャンキーを見つける
どんなに隠そうとも分かる。

態度、匂い、表情、汗のかきかた
何か一つでも思い当たるならば、その目を見つめる
そうすれば、彼らはそれを全て目配せと取る。

そうでなければ、怖がって目を逸らす。

犯罪はそこから始まる。
完全に主導権を握っているのは、カンがするどく逃げ足の速い売人である。
客は罪を重ね、金を払い続けるかわいいウサギなのだ。

「あいよ、毎度。」

小声でそう囁く、スペイン語訛りの男はそそくさをフィオナに背を向けた。

「おい、待て。」

「あァ?」

「こいつに何売った?」

少し息の上がったゾロが掴んだ手をするりと振りほどき、ディーラーは一目散に通りへと駆けて行った。

「ちっ。」

こそこそとゾロを避けるように歩くフィオナは、その舌打ちに肩を強ばらせ
立ち止まった。

「フィオナ・・・おまえ、薬抜きたいんじゃなかったのか。」
「関係ないでしょ。」
「残念ながら、大アリだ・・・手ェ出せ。」

強引に引いた手からソレを奪い取り、ゾロはフィオナの手の届かないところまで
高く掲げた。

「そらみろ、こりゃ0.3あるかないかだ、コレいくらで買った?」
「・・・400。」
「ザマねえなジャンキーが、ボられ過ぎだろ、ったく。」
「だって、自分で引いたことないんだも・・・ってちょっとお!!!」

ゾロはそのままザブザブと海に入り、ビニールを引きちぎった。
散り散りになった白い粉は、早朝の冷たい海へと溶けていく。
追いすがるも全く及ばないフィオナの弱々しい腕が、はらりと海面を揺らした。

「来いよ、朝飯だ。」

うなだれるフィオナの腕を引き、波を蹴るようにゾロは歩き出した。
二人の波を踏むバシャバシャという不協和音だけを聞きながら、引きずられるがまま、フィオナは通り過ぎる変わりのない海の景色を眺めた。

「いいか、オレとお前はいわば運命共同体だ。これ以上、罪を重ねるとなァ
・・・とんでもねえことになんだよ!お前みたいな世間知らずをなァ、放っとくととんでもねえことになるんだよ!」
「・・・。」
「おとなしいな。」
「平和だねェ・・・へへへっ・・・。へへっ・・・。」
「・・・重傷だなこりゃ。」




機嫌の悪さを深めたゾロは、もう殆ど動かないフィオナのピンヒールのサンダルを脱がせ、肩に背負い込むようにしてジンベイの家を訪れた。


「オラよ、ジンベイ。150万ドルの女だ、だいぶ腐ってるけどな。」

乱暴にフィオナをソファに放り投げ、ゾロもリビングチェアに身を沈めた。

「来たか・・・、フィオナ。」

ジンベイはフィオナの顔を覗き込み、感慨深そうにそのうつろな顔を見つめた。

「わしを覚えておるか?ん?」
「・・・だれだ、おっさん。」
「ふっふっふ、まあ無理も無い。」

ジンベイはフィオナの手に水のボトルを握らせると、立ち上がってキッチンに消えて行った。
何かに気づいたように、ゾロはジンベイの後を追った。

「おい、あいつが150万なのか?」
「そうじゃ、あの娘をマイアミに連れて行け。」
「マイアミ!?おいおい、冗談きついぜ。」
「150万じゃ。欲しくないのか?」
「欲しいけどよ・・・、でも。」
「西側を離れたくないか・・・無理もない。」

暗い表情を浮かべたゾロは、キッチンのカウンターに腰掛け考え込むように顎をさすっていた。

その様子にジンベイもため息をつき、トースターのスイッチを押した。

「おまえさんはよく働いてくれておる、なんとかしたいが・・・。」
「・・・あいつはジャンキーだ、それにオレは・・・とにかく、面倒みきれねぇ。
誰か別なヤツに回してくれ、オレは少し休む。」


ジンベイとゾロも考え込むようにして、進んで行くトースターのタイマーをじっと見つめていた。

「いや、やっぱやる。」
「ふふん、じゃからおまえさんに頼んだんじゃ。
バウンティハンターのゾロ!」

ジンベイの笑顔から逃れるように、ゾロはそのままカウンターを降りてリビングに戻った。

ソファーの肘掛けに痛そうに頭を乗せて眠るフィオナを見下ろし、見たこともない
150万ドルという札の束を想像した。
やがてその残像に、どこか懐かしさと悲しさを覚えた。

ゾロはフィオナの抱きしめるクッションを奪い取り
反対側の肘掛けに放り、その身をソファーに沈めた。

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