The Cross Road 02


「で?アチシにやって欲しい事って?」

「アシと武器の調達だ、俺が動けばジンベイが嗅ぎ
 付ける可能性がある。」

「アシ!?武器!?何?アンタたち、銀行でも襲う
 つもり?」

「それも名案だが、とにかく俺の指示通り動け。」

アトランタの街を過ぎたフリーウェイでも古い
キャデラックは目立つ。
ましてやオープンカー、何が待ち受けるか分から
ない街にこのまま突っ込むにはあまりにも無謀だ。



車を走らせ、3時間程の場所でフリーウェイを降り、
ゾロは迷わずに市街地の方へ進む。
フィオナは疑わしいとばかりに地図を凝視しながら
道路表示を確認し、また地図に視線を落とした。

「どこ行くの、もうすぐフロリダなのに。」
「るせーな、地図くらい頭に叩き込んでるっつ
 の。」
「はあ、そんなことゾロが出来る訳ないでしょ。
 で、どこに向かってんの。」
「…ブラックシア湖だ。」
「だったら次の角を右、このまま行けばリゾート
 ホテルに突っ込むわよ。」
っ…わかった。」

フィオナの言う通り、右へ曲がると森が広がり
その先には湖畔への道が続いた。
近辺が湖畔リゾートのその場所はひっそりと静まり、すれ違う車も殆どなかった。
湖畔にひっそりと佇むレストランに車を寄せエンジンを切ったゾロはぐっと振り返るとボンクレーの
胸ぐらを掴み、鬼の形相で睨みつけた。

「金出せ。」

「いきなりぃ!?」

「俺たちはメシ食って来る。お前はキャデラック
 売っ払って武器を調達して来い、いいな。」

「分かったけど、車と、武器?武器って何?」

「マグナム!」

「バカ、お前には扱えねェだろうが。9ミリのベレッ
 タでいい、あとは適当に見繕え。車はなるべく目
 立たねえ安いやつ。」

ボンクレーは言われるがまま100ドルをゾロに
渡し、運転席に乗り込んだ。

ジンベイに貰った8000ドルはいつのまにか底を
ついていて、無論フィオナがこっそり使っていた
カードはアシがつきやすいから使えない。

ゾロの警戒心はいつにも増してビリビリと放たれていた。

ウィークデイの昼過ぎのレストランは、休日の為に
作られただだっ広さを持て余し閑散としていた。

魂が抜け出た様に外を見つめたまま、盆を持つ
ウェイターは来客にも気づかぬ程にぼーっとしていた。

「…ゴジ!!」

ヅカヅカと店に入るなり、ウェイターに人差し指を
突き立て、そう言い放つとゾロは店内の奥の席に
どっしりと座った。

「ア?どっかで会ったか?」

「ん?サンジ…もしかしてブラウンフィールド…
 ヨジ、はっ!」

「いらっしゃいまっせーマドモアゼル。」

「ゴジ!」

フィオナもはっと何かに気づいた様に、人差し指を
突き出し思わず叫んでからゾロの後を追った。




眠気半分、警戒心半分のゾロの眉間の皺がいつも
以上に深く刻まれている。
そっと席についたフィオナもそれは感じ取っていて、せめてその半分の警戒心だけでも手伝って
やろうとしきりに辺りを見回した。

「大丈夫だ、ここは。」
「え?ああ、そうなの。」
「あの、ウェイター以外はな。」
「…ああ。」

改めてみても、その容姿は何度かお目にかかった
アレと同じで、否定をしないところをみるとやはり
予想通り、名前は

「ウェイターのゴジです。本日のおすすめは、
 沢ガニのバター炒め、チキンサラダ、ビーフ
 シチュー、デザートにクレームブリュレはいかが
 でしょうか。」

ゴジだった。

「米、ねえのか。」
「あん?」

ビリリと感じるのは、ゴジもまた見慣れぬ客に
放つ警戒心。

「あるぜ。」

警戒心から放たれる予想外の返答に、ゾロは目を丸
くした。

「よかったね、ゾロ。私はおすすめのシチューと
 デザート、あとコーヒー。」

「おにぎり、シャケ。」

「承知いたしました。」

がに股で去って行くウェイターを2人で覗き込み
ながら、顔を見合わせた。

「やっぱり別人みたいだね。」
「そう…だな。」


日が傾き始めても、ボンクレーが戻ってこなかった。
2人はゆっくり食事を終え、丸めたナプキンを転がし合うホッケーゲームをだらだらと無言で続けていた。
相変わらずウェイターのゴジはカップルに興味は
ないと言わんばかりの態度で、レストラン中央の
席に足を上げてタバコをふかしていた。

とっくり日が暮れた頃、外に車の気配を感じた2人
は100ドル札をテーブルに置くと食い逃げのように
走って店を出た。

カンの良いウェイターは特に追いかけることもせず
に、闇に消えて行く車のテールランプを目で追いな
がらため息をついてまたタバコに火をつけた。

「彼女ほしい。」

誰にも伝わることのない神への祈りを呟き、
閉店の準備に取りかかった。



「また随分と古い車をつかまされたな。」
「しょうがないじゃない!こんな田舎で、車も銃も
 探すの大変だったのよう!!」
「まあ、悪くない。じゃじゃ馬の俺にゃ似合いかも
 な。」

古めかしい排気音を立てながら、3人を乗せた
マスタングは再びフリーウェイに入り、次第に
スピードを上げた。







フロリダとの州境の手前で、日付が変わった。

疲れ果てたボンクレーは狭苦しい後部座席で
イビキをかき、フィオナはもらったベレッタに
ジャキジャキと装弾をし始めた。

「ゾロ、この銃ちゃんと動くかな。」

カチャ、と窓の外に銃口をむけたフィオナに
ゾロは血の気が引き、慌てて片手でフィオナを
押さえ込んだ。

「何やってんだバカか!?」
「でも、動かなかったら意味ないし。」
「いざって時に使うだけだから、しまっとけよ!」
「だから、イザって時に動かなかったら
 大変じゃん!」
「ここはフリーウェイだぞ!?ここでぶっ放したら
 いくらお前の男でももみ消せねェだろ、
 やめろ!」
「じゃあどっか寄ってよ、試し撃ちしなきゃ。」
「いらねェって、余計なことすんなよ!」
「えーひどい、これは脅しの道具じゃないんだから 
 ね!!」
「いや、そうだけどっ!」

ガチャリとゾロのこめかみに銃口を当てたフィオナ
はニヤリと笑う。

「脅してんじゃねーかよ!」

主導権を握ったとばかりに、性格の悪さをにじみ出
させたフィオナは変わらずにニタニタと笑い続け
る。
大きく舌打ちしたゾロは思いっきりハンドルを
切り、フリーウェイを降りて真っすぐに森を
切り開いたような道へと車を進めた。


やがて市街地を抜け外灯もない道へ、所々に木の
生えた舗装のされていない道路の真ん中で、
ゾロは車を停めた。

一台の廃車が道の脇にあり、それを見つけた
フィオナはおおっと目を輝かせた。

「じゃあ、こっからあのドアミラー狙え。」
「やった!」
「バカ、車降りろ。」

意気揚々と車を降りたフィオナは狙いを定めて
引き金を引いた。

響き渡る銃声に、飛び起きたボンクレーは天井に
頭を打ちつけ再び眠りに落ち、ゾロは呆れた様子で
シートに深く沈み込んだ。

その後も数発撃つも、車にはまだキズ一つついて
いない様子だった。

「もういいだろ、ちゃんと弾は出てる。ほら、
 行くぞ。」
「えー、まだ…。あ、あそこ!」

遠くに何かを見つけたフィオナは目を細めて指を指す。

ゾロも同じ方向を向けば、数十メートル先に煙が
上がり、その下には火を焚いているような様子が
伺えた。

「ちっ、持ち主がいやがったか。」

ゾロがその様子を確認し、また面倒なことになった
とドアノブに手をかけたとき、また一発の銃声が
鳴り響いた。

車を降りてみれば、フィオナが無謀にも煙の方向に銃口を構えたまま立っているのが見えた。

「あれ狙ったのか?」
「うん。」
「届くわけねーだろ、バカが。」


念には念を、とゾロはその方向に歩き出し、
フィオナも足を引きずりながらゾロの背中を追った。

足を引きずる音に立ち止まったゾロは、フィオナに
そっと手を差し出しすこし笑った。
フィオナもにこやかにその手をとり、キュっと握り
返す。

「バカ、手じゃねーよ。没収。」

途端に鬼の形相に変わったゾロに、フィオナは渋々
ベレッタを差し出しブッと頬を膨らませた。




舗装されず、車が踏みならしたであろうその十字に
交わる道の脇、不気味にそびえる葉をそがれたようなニレの木の下、小さく焚かれた火の前に男が1人
座っていた。


銃声が鳴り響いていたにも関わらず、ずっとソコに
座り、呑気にギターを構えては時々つま弾いてい
る。

その光景をしばらく見つめた後、ゾロはボリボリと頭を掻きながら男の目の前にしゃがみ込んだ。


「おい、あれ、お前の車か?」

「ああ、そうだよ。」

「わりィ、連れがキズつけちまったかも知れ
 ねェ。」

「いいよ、ボクにはもう必要ないから。」

「つーか、お前何やってんだこんなところで。」

「君たちこそ何してるの?用もないのにココに来た
 の?」

「用っつーか、まあ、そうだな。」

淡々と答える男に苛立ちの色を隠さず、
立ち上がったゾロとは反対、フィオナは興味津々
と言った様子で焚き火の前に座り込んだ。

「なんでこんなところにミュージシャンが居るの?
 ライブ?」

「違うよ、ボクは待ってるのさ。」

「何を?」

「悪魔を。」

「…へぇ。」

フィオナは引きつらせた笑顔のまま立ち上がるとゾロと肩を並べた。

「(この人大丈夫?)」
「(さあなぁ、)」

耳元でコソコソと話す2人の声を際立たせる様に、
男はギターを弾く手を休めると、フっとため息をつ
いた。

「君たち、知らないの?クロスロード伝説を。」

「・・・は?」

「この十字路に夜中現れる悪魔が、音楽の才能を
 与えてくれるんだ。魂と引き換えにね。」

「…へぇ。」

「名だたるミュージシャン達がここで魂を売って
 名声を手に入れた。ロバート・ジョンソン、
 バディ・ホリー、ジミ・ヘンドリックス、
 ジャニス・ジョプリン、カート・コヴェイン、
 ジム・モリスン、ボブ・マーリー、・・・。
 みんなここから始まった、だからボクは待ってん 
 だ。」

「…へぇ。」

「なんでエルビス入ってねーんだよ。」

呆れるフィオナと対照的に、ゾロは何故かその
名前の羅列に不服を申し立てた。

男は無視するように饒舌に説明を続ける。

「ボクの名はシャチ、いずれその名だたるミュージ
 シャンと並べられて名声を手に入れる。
 覚えておくといい、ボクの名を。」

「いや、エルビスは?」
「ゾロ、いつからエルビス好きになったの?」
「別に、俺は元々…。」
「何、もしかしてミホークに憧れちゃったとか?」
「バカ!ちげーよ!んなわけねーだろ!」
「ヤダ、ゾロもロリコン。」
「なんで話がそっちに行くんだよ!」


闇夜のクロスロードを照らす火に誘われ、
蠢く悪魔は真っすぐに、その場所を目指していた。



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