The Cross Road 01



「ふぇ、え、え、え、えーーーー!!!?」

縛り付けられたまま眠っていたボンクレーは勝手に
動く視界に激しい瞬きを繰り返しながら叫んだ。


「静かにしろ。」


片手で飄々と椅子ごと男を引きずるゾロは、隣の部
屋に入ると椅子ごとボンクレーを床に叩き付けた。


「いいいいや!!痛いのはいや!優しくして!優し
 く!優しくならいいから!」

「静かにしろと、言ってんだ…。」

恐る恐る目を開くと、ベッドでシーツにくるまった
まま裸で寝息を立てるフィオナの姿が映り、
ボンクレーは唖然とした。

「アンタ、ついに…何て事を、こっ殺されるわよ
 う!!」

「何もしてねェよ。」

「じゃあやっぱりアチシが狙い!?せめてシャワー
 にぃ…きゃあああ!!」

「煩せェっつってんだろ!気色わりィ、刀銜えさせ
 んぞコラ。」

「かっ…刀っ。あん…。」

脅そうにもみるみる嬉しそうな表情を浮かべ始める
ボンクレーに嫌気がさし、ゾロは乱暴にボンクレー
を縛っていたロープを切るとメモをブロックごと頭
に叩き付けた。

「そこに書いてあるもん買って来い、30分以内に
 だ。戻ってこなきゃフィオナを殺す。」

「いやいやいや、アチシわかんないわようここは
 ドコなのよう!!」

「で、罪をお前になすり付ける。」

「30分後にっ!!シャボンディ諸島で!!」


ボンクレーは力強く立ち上がるとメモを握りしめ
転がる様に部屋から出て行った。





ゾロは眠れなかった。

ウトウトし始めたフィオナの横に身を倒したものの
眠気が遠のき、神経が研ぎすまされて行く。
寝顔を見つめたまま、とうとう眠る事ができずに
朝を向かえた。


怠い徹夜明けにオカマの悲鳴は堪える。
床に倒れ込み少しでも眠ろうかとした瞬間、自分を
覗き込むフィオナの熱い視線に身体が跳ね上がっ
た。


「おはよ。」

「ああ、よ。」

「寒い。」

「俺は寒くない。」

ニっと笑ったフィオナは器用に肩から床に傾れ
落ちるとゴロゴロと身を転がし、ゾロの肩に頭を
乗せてまたゾロに向かってニぃっと笑ってみせた。

上手い事収まるもんだと感心しながら、ゾロは
シーツの獣を抱きしめた。

「どこまで話したっけ、昨日。」

「ドフラミンゴがプールに落ちたってとこまで。」

「そうそう、それで私もプールに引きずり込まれて
 さ、」

「もういい、くっだらねェ。」

フィオナの口を自分の首に押さえつける様に
力を入れ、ゾロは目を閉じた。



2人でマイアミに乗り込むことで話は纏まった。

ドフラミンゴは動かない、ドフラミンゴは手を出さ
ない、そうと分かれば多少暴れてもドフラミンゴを
恐れる事はない。

最も警戒すべきはマイアミで待ち受けるのは何者な
のか…ジンベイに一度連絡を、そこまで考えたとこ
ろでゾロは心地よい眠気に攫われた。



そして束の間、息をきらして戻って来たオカマの
悲鳴に叩き起こされた。


「おはよ、ボン。」

くいっと振り返り短い言葉を投げたフィオナはまた
ゾロの首に顔を埋めたが、寝起きの悪いゾロに
転がされ、ベッドに頭を打った。



「フィオナ!あんた!ダメよ!そいつ…ヤダ!!
 ダメダメダメ、お母さんそんなヤツ認めない!」
「いつからお母さんになったのよ、ってェ…。」
「痛いところない?乱暴にされてない?ああ、もう 
 なんであんんたはこう節操ないのよう!!」
「何もしてないって、起こして!」

うーんと伸ばされた腕を取ったボンクレーは
ガクガクと膝を落としながらその手を取り、
深いため息をつきながらフィオナを起こした。


「包帯巻いて、服着せとけ。」

ゾロは無言でボンクレーの落とした買い物袋を漁る
と不機嫌さを辺りにまき散らしながらバスルームに
入って行った。





「あんた、ホントに大丈夫?」
「何が?」
「ほんとに、何もされて…。」

シーツの間から覗くフィオナの脚の異変に気づいた
ボンクレーは途端に口を噤み、フィオナを抱き上げ
るとベッドに座らせた。


「心配なフリが上手ね、ボン。」
「何言ってんの、ほら、包帯巻くわよ。」
「お金って大事よね、私も1人でこんな遠くまで
 やっとありがたみが分かったーみたいな。
 ボンは何で?何の為にこんなこと続けてるの?
 何でお金が必要なの?」
「フィオナ、アチシはお金の為にやってるわけじゃ 
 ないわよ。」
「嘘だね、お金貰わなかったら、私の友達のフリな
 んてしなかったでしょ。違う?」
「それは…、」
「ドフラミンゴに雇われただけ、でしょ。」
「...。」



嫌みの濃さの増すフィオナの声に、ボンクレーは
それ以上答えることをしなかった。
買って来た大量の包帯をフィオナの脚に巻き付け、
着替えさせ、ため息をついてベッドに乗る。

「力いれすぎ。」

「あっ、ごめんなさい。」

フィオナの髪を結いながら、ボンクレーは心ここに
あらずと言った様子だった。
見慣れたフィオナの後ろ姿に、ヴェガスでつるんで
いた頃を思いだす。

確かに、ドフラミンゴにフィオナの"友達"として雇わ
れたのは確かで、それはフィオナもよく知っていた
こと。
ボンクレーと同じ様に雇われた人間はたくさん居た。
ドフラミンゴはフィオナの安全を金で買ったのだ。

フィオナの人当たりの悪さは増す一方だった。
毒を吐こうが、蹴ろうが殴ろうが、文句を言う人間
は回りに1人も居ない。
そんな人間に回りを取り囲まれた生活に嫌気が
さしたフィオナの気持ちも十分に分かっていた
つもりだった。


「フィオナ、教えて。アンタ、何がしたいの?」

「ゾロのね、友達を助けるの。」

「それで満足なの?」

「…うん。」


ボンクレーは雇われた1人にはなりたくなかった。
せめて自分だけは、最後までフィオナの友達であり
たい、そんな一言が言えない。

クビを宣告されればそれまでで、フィオナの行動は
正に、読めないから、言えない。


「脚、このままじゃ悪くなる一方よ。だから、」

骨が軋む程抱きしめて、言葉じゃなく態度で、

「教えなさいよ、アンタ、本当は何考えてんの。」

「…教えない。」


滝の様に流れ出る涙を押さえることもせずに、
ボンクレーはワンワンと声を上げて泣きながら
フィオナの髪をまたまとめ直した。



バスルームから出てきたゾロはその光景に舌打ち
し、またそのゾロにフィオナは感嘆の声を上げた。

「アンタだれ!」
「あ?るせーな、目立たねえようにしただけだ。」

髪を真っ黒に染め上げたゾロは、何事もなかったか
の様にシャツを羽織ると買い物袋から取り出した水
をガブガブと飲み出した。



「荷物積んで来る、準備しとけ。」


ゾロの背中を見送ったフィオナは目を輝かせて
ボンクレーの肩を掴んだ。

「え"?」

そうしてボンクレーは、フィオナの髪を丁寧に結い
上げたことを激しく後悔することとなった。

「なんでお前まで黒く染めんだよ!!」
「いいじゃーん、やってみたかったんだよ。」

車に降りて来たフィオナは真っ黒に染め上げた
ロングヘアーを振りながら楽しげに笑った。
その肩を支えるボンクレーの顔は対照的に
落ち込んでいるようで、なんともメンドクサイ
オカマだとゾロは眉を顰めた。

「アチシも、連れて行きなさいよ。」

ゾロがフィオナを受け取り、助手席に乗せたところ
で、ボンクレーは声を張った。

「マイアミだかどこだか知らないけど、アチシだっ
 て…そのぅ…。」
「ボン、あんたはもう、」

ボンクレーの声に被せる様にフィオナは冷たい声を
上げたが、それを更にゾロが制止した。

「ったりめーだ、お前にはまだやって欲しいことが
 ある。」








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