The Another Phoenix02

「かいー・・・かっゆー・・・っ。」

ボリボリと脚を掻きむしりながら目覚めたベッドでフィオナは一人だった
まだ寒さを感じるのは、開け放たれた窓のせいで
朝日の差す部屋はどこか清々しかったものの、やはりこのただれた脚のかゆみに
勝るものはどこにもなかった。

外ではゾロがトランクに上半身を押し込んでゴソゴソと何かやっている。

「ゾロー?なにしてんのー?」
「バカっ!話しかけんな!!」

その一言に、昨夜見てしまった箱の中身を思い出し
フィオナは血の気が引いた。

フィオナは荷物を両手に抱え、部屋を飛び出し車に急いで乗り込んだ。

ゾロは荷物の中身にシーツを被せ、箱の中身を見られてもなんとかしのげるように
していた。

「ちょ・・・そんなんで大丈夫?」
「まあな、飛ばせば6時間でロズウェルだ・・・心配ねえだろ。」
「心配・・・大アリだよ。」


エンジンをかけたゾロはめずらしく、フィオナの地図を奪い取り、フロントガラスいっぱいに広げて
うなり始めた。

「12・・・12号線を・・・っとここで・・・右、いや東どっちだ?ぅぅぅうううう・・・。」
「ゾロ?」
「ロ・・・ズ・・・ウぅぅぅぅうううう。」
「道わかんないの?」
「ん・・・んなことねえよ。」
「12号線からダティルで右折、60号線に乗ってソコロで1号線に乗り換えて直ぐ380号線、あと真っすぐ。」
「・・・んなこと、なんで分かんだよ。」
「地図見るの好きだから。運転代わろっか?」
「お前、運転できんのかよ。」
「免許ないけど、できるよ。」

随分、調子のいい話だと聞いていた自分に呆れ
ゾロはまたゆっくりとダートの道に車を走らせた。

「そこ右ね。」

よこから出てくる人差し指が癪に障るも、アリゾナから東に出た事のないゾロは
黙ってその頼りないナビに従うしかなかった。


「ゾロ、左だよそれ。」
「うっ・・・うっせーよ!」

しまいには左に出したウィンカーを右に付け直そうと、ワイパーを動かす始末で
フィオナの表情には哀れみすら立ち籠めた。


ようやく走り出した車の中には、ニュースのラジオが流れ続けた。
話題はやはり、湾岸戦争のことばかりである。
別の話題が上がることのほうが珍しかろうと、ゾロは特に気にせず乗せられた
12号線からはみ出さないようにだけ集中した。

一方、ヒマをもてあましたフィオナと言えば、脚を組み上げてまた掻きむしっている。

「かっゆー。」
「まだ禁断症状でてんのかよ・・・クスリ抜きも大した事ねーな。」
「あんなに苦しい思いしたのにぃ?」
「見苦しいからやめろ、こっちまで虫酸がはしる。」
「だってーだってだってだって。」
「わーったから静かにしてろ、次どっか薬買えるとこで止まるから。」


とは言え、更地にサボテンという風景が途絶えることはなく
ようやく建物が見えたのは12号線が終わったところであった。
ダティルの交差点は、運輸業者たちの補給地点とでも言うように
トラックでにぎわい、必要最低限以外のものは無い様だった。

やたらと男臭く、ガソリンの匂いのたちこめるその場所は
なんとも無法者の集まる場所に思えた。
ガソリンスタンドの横に立て付けられたような小屋が飯処のようで
ゾロはフィオナを連れ立ってなんの躊躇もなくその中に入った。

おそらく、女がこんなところに来る事はないのであろう
突き刺さる視線は妙に痛かった。

「フフフ・・・女、女・・・お・・・おんな。」

鼻息荒くテーブルに近づいて来た男にゾロは飛び上がった。
金髪のその渦巻く眉毛に見覚えがあったからである。

「ご・・・ご注文・・・のまえにお名前伺っても・・・フフフ。」

あからさまにフィオナにしか話しかけないウェイターに危険を察知するも
どうやらサンディエゴまでの道中で会ったソレとは別の様で、どうも声はかけにくかった。


「コーヒーとアップルパイ、あと・・・ゾロは?」
「えっ・・・ああ・・・。」

瞬時に殺気に満ちた視線がゾロに降り掛かり、どうも勝てる気がしないところで
ゾロもメニューに視線を落とした。

「・・・サンドイッチとコーヒー、あと・・・」
「アン?」
「・・・おまえ、サンディエゴに兄弟いない?」
「いねーよ。」

ガンっとテーブルの脚を一蹴りすると、彼は彼女が欲しいと呻きながら店の奥へと消えていった。

「ゾロの知り合い?」
「いや、なんつーか・・・ああお前覚えてねえか。」

不思議そうに見つめるフィオナはキョトンと首を傾げた。

「サンディエゴで、あいつそっくりなウェイターに会ったんだよ、覚えてねェか?」
「えー、覚えてない。どこで?」
「サンディエゴに着く前だっ・・・つっても無理か・・・はァ。」
「名前は?」
「知らねーよ、いちいち店員の名前聞くかよ。」
「そっか〜きっと別な人だよ、世の中3人はそっくりな人がいるからね。」


料理を両腕に乗せて舞い戻って来た彼に、やはり全ての特徴が一致して腑に落ちないゾロ
はチラチラとフィオナを見やった。
こんなとき、こんな奇跡を共有できないのはなんとも歯がゆいものである。

「わたし、フィオナ。あなたお名前は?」

「あなたの・・・サンジです!お姫様!!隣に馴染みの宿があるのですが・・・休憩な、」
「もういいです。」

遮断され、跳ね返されたアプローチに肩を落とし、ウェイターはそのままコック帽を深くかぶり
消えていった。

「へえーコックさんじゃん。やっぱ、違う人だよ、ゾロ。」
「あ・・・あぁ、違うような・・・違わないような・・・。」

名前を聞いたところで、何が解決するわけでもなく
とりあえず味だけは良いその軽食を流し込んで、ゾロは何の疑問を抱くこともない
フィオナが羨ましく思えた。

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