The Another Phoenix



不穏な音だ

サイレンの音

バックミラーを見れば、やはりそれはパトカー

「・・・ゾロ。」
「・・・車を停める。いいか、何を聞かれても答えるな。」
「でも・・・。」

フィオナの不安気な声に顔をしかめ、ゾロはゆっくりと車を停めた。


「ライセンス見せろい。」
「あいよ。」


警官はゾロのライセンスをまじまじと見て
ため息をついてまたそれを、ゾロに返した。

「最近、この辺で死体遺棄事件が連続してんだよい。」
「・・・、物騒ですね。」
「・・・おたくら、こんな夜中にドライブかい。」
「ええ、そうです。」

警官はライトを車内に向け、フィオナの顔を舐めるように照らした。

「・・・妬けるねい、ったく。」
「あの、ボクらもう行ってもいいですか。」
「いいわけねえだろい、トランク開けろい。」

寝ぼけたような顔をした警官の表情は急に険しくなり
ゾロは前を向いたまま、今にも口笛を吹きそうになった。
それを見ていたフィオナも、ハンコックから預けられた荷物が何であれ
恐らく警官に知られて無事に過ごせるものではないことを悟った。


ゾロは照らされたライトを手で覆うように、ドアを静かに開け
車の後方へ動いた。

「・・・さっさと開けろい。」
「・・・ほらよ。」


開かれたトランクに乗っていたのは、大きな長方形の箱だった。
ゾロは何を運ぶにも、中は覗かない主義だ。
何かの映画でやっていたからだろう、運ぶだけが彼の仕事である。

「中身は?」
「・・・お菓子。」
「・・・ア?」

警官はトランクに乗せられたその箱をライトで照らし、まじまじと見入った。
その箱は、お菓子を入れるにはあまりにも大きく、ウソであることは誰の目にも
明白であった。


「開けろい。」
「ぁン?」
「箱を開けろい。」


フィオナは捕まってしまうという不安、そして緊張感でノドがカラカラだった。
ぎゅっとシートを握りしめ、車外で話す二人の様子をじっと見ていた。

ふてぶてしいその警官は、今はもう青ざめていくゾロを睨み付けたままだった。





警官は何も答えなくなったゾロを、ライトで小突きはじめた
そのライトは突然、ゾロの目の前でふっ飛んだ。


フィオナは助手席から後ろのトランクに転がり込むと、勢いそのままに警官を蹴り飛ばした。
そしてすばやくゾロをトランクの中に引きずり込み、トランクを中から閉めた。


「おいぃぃぃぃ!やめろ!これ以上・・・」
「ホラ!いくよゾロ!!逃げるよ!!」

フィオナはいそいそと運転席にゾロを押し込んだ。
この状況で、ゾロも逃げる以外に何の名案も浮かばず
ひたすらに逃げ込める場所を探し、車を走らせた。







追ってくるパトカーは、どうやら数を増やし続けている
なおかつ、外灯もない道がやけに明るい
どうやら、ヘリも出ているのだろう。

逃げ切らなければ・・・

その一心で、ゾロは未知のフェニックスの以東を走っていた。
フィオナも邪魔するまいと、しかしどこか興奮を覚えた笑みを浮かべて
シートに沈み込んでいた。

山道に入り、曲がりくねる道なき道を登っていたころに
あたりからサイレンやサーチライトの気配が消え、ゾロは車を停めた。


「・・・テメぇ・・・いーかげんにしろよ!」
「だって、あぶなかったじゃん。」
「モノ運ぶってのは、それ相応の準備もしてあんだよ!あの荷物だってなあ
カモフラージュくらいしてんだから!なんだってまた警官を・・・」

ガミガミと声を荒げながら、その箱を開けたゾロが一瞬、ヒッ・・・と静かな声にもならない
息を鳴らした。


「どうしたの・・・ゾロ?」
「ライト・・・持ってるか?」
「え?」
「ちょっ・・・ライト・・・。」
「んんーはい。」

パっとフィオナが照らした先、その箱の中からは
にわかに香しいバラの香りがした。
開け放たれた箱からは確かに真っ赤なバラが舞出てきた。
その中には、胸の上で淑やかに両手を組み
生気のない色をした唇にギュっと閉じられた目の

「・・・おっさん。」
「死体か・・・こりゃ見つかってたらヤベぇな。」

おっさんが寝かされていた。

ゾロは少し震える手で、急いで箱に蓋をした。
もう二度と、預かった荷物は開けまいと心に誓いながら。

壊れる程にトランクを勢いよく閉め、運転席に戻りなんとなくフィオナの顔を見た。

さすがに、死体をここまで運んで来ていたとは自分も気づかなかった
世間知らずのフィオナにとっても尚更、これはショックな光景であっただろう
だが、考えても見れば、あのフィオナの考えもなしにやらかした行動に
どうやら今回は救われたらしい。

「ゾ・・・ゾロ、あれ、ど・・・どうす」
「寝る。今日は・・・寝る。」
「そ・・・だね、そうしよう。」

ゆっくりと走り出した車は、ゆっくりと山道を下って行った。

田舎町のはずれにあるロッジは弱々しい光を放つだけで、まったくもって
客を歓迎する様子もなかった。

「寒い!」
車を降りたフィオナはあまりの外気の寒さに飛び跳ねては奇声を上げた
疲れきっていたゾロもまともに相手をする気もなく、フィオナを引きずるように
ロッジへと入って行った。


あてがわれた質素な部屋の暖房はあまりにも効きが悪く
ゾロは買って来たビールを何本も平らげ、相変わらずテレビのチャンネルを漁った。

フィオナは質素な毛布にくるまり、暖房の前を占拠して動かない。

「なんで昼間あんなに暑いのに、夜はこんなに寒いのぉぉぉぉ。」
「アリゾナでも山岳地帯はこんなもんだ、アリゾナなめんな。」
「ゾロ〜?背中合わせて寝たらあったかいんだよ〜知ってた〜?」
「るせー、勝手に寝ろ。」

わざとらしいフィオナの声に眉をしかめただけで、ゾロは見向きもしなかった。

どうせ動く事はないであろうゾロにため息をつき、毛布の獣と化した
フィオナはベッドに潜り込み、身を丸めた。

寝入りばなに感じたのは、自分の背中がじわじわと温まっていく感覚だった。

テレビは消され、裸電球も消され
暗闇の中で背中が温かさと、相応の押さえきれていない彼の寂しさを感じさせた。

誰かに頼ってばかりで、自分のことすらままならないフィオナにとって
何かを背負うゾロは何倍も大きな人間に思えた
でもそのここまでついて来てくれたゾロの行動に
むしろ自分がゾロを抱きしめてやりたいとすら思えた
ともあれ合わされた背中の体温の心地よさに、眠気はじわじわと
瞼を押さえつけるようで、彼女は再び眠りに落ちた。

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