The Atlanta 02



車が走り出してからというもの、ゾロとフィオナは
終止五月蝿いボンクレーに構わずにひたすら東を目指した。

「ねえ、ドコ行くのよ。あちしお化粧直したいんだけど、
 ヤダ、空港にまつ毛置いて来たかも、戻りなさいよ。
 聞いてんの?ねえ!ちょっと!」



「このままずっと78号線、あとは5時間くらい
 かな・・・。アトランタの手前で止まろう。」
「ああ、なんとか行けそうだな。」

「聞いてんの!?ていうか、聞いてよ!」

あまりにも大きな声に業を煮やしたフィオナはぐいと振り返るとボンクレーを睨みつけた。

「ボン!ちょっと静かにしてよ!」
「んもーあさってはカールのパーティーがあんのよ、
 フィオナも行きたいでしょ?次の日はヴィヴィアンよ。」
「マジ?・・・いや、それどころじゃないの!」
「それどころじゃなかったらどれどころなのよお!!」
「こんなオープンカーで話せるようなことじゃないの!」

女のキンキン声とオカマのドス声の往訪にに吐き気すら
覚えながら、ゾロは78号線から外れぬようハンドルを
握り続けた。


やがて日が暮れゆき、田舎道は遠くに街の灯を臨むところ
まで来ていた。アトランタ手前の適当な宿に車を入れた
ゾロは、息をついて車のエンジンを切るとフィオナに泣け
なしの200ドルを渡し、部屋を取るように言いつけた。

「さてと、おいオカマ。」
「失礼ね!オカマなめんじゃないわよ!あちしは、」
「ボンクレー…ただモンじゃねェってことは分かってる。」

ゾロはボンクレーを後ろ手に縛ると、その背中を蹴り出すように部屋へと向かわせた。

「ちょ!何すんのよう!!あちしそういうプレイに興味、
 興味は、んないわよう!!」
「喚くな、安心しろ殺りゃしねーよ。」


やがて部屋のカギを手に、フィオナは2人の様子に
汚いものを見下すような目を向けながらヨロヨロと戻って
来た。

「何してんの、あんたたち。」
「いいから部屋開けろ。」
「ん、はいはい。」

ボンクレーを部屋に引きずり込み、椅子に座らせると両足も
椅子に縛りつけ、ゾロはベッドにドカっと腰掛けた。

只ならぬ様子にフィオナは口を挟むことも出来ずに、半開き
のドアの前に立ちすくみ、きょろきょろと辺りに警戒の目を
向ける。

「フィオナ、閉めろ。」
「あ、私、じゃま?」
「お前も入れ、」
「えっ・・・私ちょっとそういうの・・・。」
「いいから、早くしろ。」

フィオナは扉を閉めると、そのまま床にストンと座り
不安げにボンクレーに視線を送った。

「いいか、オレはな、騙されたり、騙すのは
 ウンザリなんだ。コケにされたり、バカにされたり
 だからよく聞け。オレは苛立ってる。」
「言われなくても分かるわよう、おでこがデコボコしてる
 グランドキャニオ」
「だ ま れ 。」

声の圧力にボンクレーは大人しく口を結んだ。
フィオナもまた、ゾロの苛立ちは目からビームの様に
放たれているのがよく分かり、まともにその顔を見ること
ができなかった。


「ジョーカー…、ドフラミンゴは間違いなくヴェガスに
 いるんだな。」

「あたりまえじゃない。」

「たとえ、フィオナの為でも、ヴェガスから動くことは
 ねェ、そういうことか。」

「それは、その、あれよ。あの、その、」

「はっきり答えやがれ!」

「動かない!動かないわよう!」

怒声に震え上がったボンクレーは椅子をガタガタと揺らし
負けず劣らずの大声を上げた。

「ドフラミンゴの資産は、幾らだ。」
「はい?」
「幾らだって聞いてんだ、大体でいい。」
「…分かんないわよ、でも大体…4億ドル、もしくは
 それ以上。」

ゾロは額の血管をピクつかせ、拳の骨を鳴らしながら立ち
上がると、ボンクレーに近寄り、怪しげな笑みを浮かべた。

「よし、じゃあ何て言われてメンフィスに来た。
 一語一句間違いなく全部吐け。」

「ちょちょちょちょ、何よう!あちしは別にあんたに
 危害を加えようとか、そういうこと全然
 思ってないわよう!」
「あァ?じゃあテメーありゃなんだったんだ。空港で
 オレと目が合った時、オレを殺そうとしたよな。」
「ご、誤解、あああ!もう話すから!その顔やめて!」

無論、ゾロが殺気を鞘に納める様子はなく、今にも殴り
殺さんという気迫でボンクレーに迫る。
手足の動かせない状況の中、逃れる事のできない恐怖心から
ボンクレーの視線はフィオナに助けを求めていた。

「フィオナを連れ戻せって、誘拐犯はその場で
 始末しろって!」

パキっとゾロの骨が音を立てて力を込め、一層眉間のしわが
深く刻まれ行く。

「ヴェガスの病院で発砲事件があって、警官の話から
 フィオナがやったって分かったから… それで、男と
 車で逃げたって聞いて、もうカンカンよ!
 アリゾナでもまた警官に暴行したってのも無線で聞いて
 そ、それにフィオナのカードの使用履歴からも場所を
 割り出して、メンフィスに向かったの!
 とにかく、あの人はねェ、フィオナ。」

突然呼びかけられた声にフィオナはビクっと顔を上げ
ボンクレーの涙が滲む目をちらりと見やった。

「あの人… あんたが心配なの。あんたは、
 ヴェガスを出ちゃいけなかったの!」

フィオナはそんな涙ながらのボンクレーの言葉に目を逸らし
俯いてカーペットをむしりはじめた。

「じゃあ、フィオナの起こした警察沙汰も、アイツが
 全部もみ消したってことか。」
「あったりまえじゃないのよう!」
「…納得した。ならこっからは好き放題やっていい、
 そうだな。」
「そうだなて、あちしに言われてもわかんないわよう!」
「フィオナ!」



フィオナは変わらず、聞いているのかいないのかという態度
でカーペットをむしり続ける。


「お前、これからどうするつもりだ。」
「…どうするって?」
「マイアミへ行くか、それともドフラミンゴのところへ
 帰るか。」
「ゾロは?」
「オレはどうでもいい、お前がどうしたいかだ。
 お前の置かれている状況だとか、そんなもんオレは
 知らねェし、わからねェ。だがな、そう想われてる
 っつーのは、無視すんな。考えろ。」
「ゾロ…。」

思うような顔をしない
いつも自分の予想を越えた行動に出る
女が神秘的ってのはそんなとこにあるんだろう

ゾロは予想に反したフィオナの怒りの表情を
解せなかった。

「私は、クイナちゃんじゃないんだよ。」

そう、伝わらぬ思いをいくらぶつけても応えてはくれない
だから奥底に閉じ込めいつしかそれが獣のように呻く
そんな思いを抱えたドフラミンゴの気持ちが痛い程に分かる

そして通った神経で、自由に動けるハズのフィオナに
いつのまにかクイナの面影を重ねている自分に罪悪感を
覚えながら。

クイナなら、もし自由にクイナが動けたらなら…

自分ならば、鳥籠に閉じ込めておきたい
逃げても帰って来て欲しい
必ず、迷わず自分の元の帰って来て欲しい
そして心から自分を求めて欲しい

「マイアミへ、行く。」

想われることを、至上の幸せと思って欲しい
それが、その心が伝わらない

「ゾロが行きたくないなら行かなくていいよ、私1人でも
 ちゃんと横断して、150万の賞金首つかまえて、助けに行
 く、クイナちゃんのこと。だから、いいんだよ。」

「…ドフラミンゴに伝えてくれ、テメーの女は
 マイアミに行きたがってるってな。」

未だ口をあんぐりと開けたままのボンクレーは、2人の意味深
な会話に顔をしかめ、大きく息を吸い込んだ。

「冗談じゃないわよーぅ!!」

騒ぎ立てるオカマを尻目に、フィオナは立ち上がり
もう一つのキーを差し出しゾロに渡した。

「あーうるせェ。」
「私もこの部屋イヤ。」

ゾロはキーごとフィオナの手を引き、騒音を置き去りに
部屋を後にした。





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