The Atlanta 01

投げ掛けられた言葉に、フィオナは前へ出ることも
後ろへ下がることもできなかった。

言葉の主、ボンクレーのするであろう事を読み取ってか
フィオナは硬直するように人ごみの中ひと際目立つ
オカマの形相を見つめていた。

異変に気づいたゾロは咄嗟に腰に携えられた刀に触れ
見慣れない恐ろしいその様に息を呑んだ。


「フィオナ!さ が し た わ よ!」

アスリート顔負けのそしてバレリーナも真っ青な
美しい跳躍に乗せられた発音の一つ一つが
フィオナに迫り来る。

クルリと回って見せたボンクレーはフィオナの身体を
ギュっと抱きしめると、懐かしむ様に両頬をガシリと掴み
目に涙を浮かばせた。

「ボン!どうしたの、なんでここに・・・」
「追っかけて来たに決まってるじゃないのよう!」
「ひ、ひさしぶり!」

フィオナも動揺しつつも少し嬉しそうな笑顔を浮かべ、
ボンクレーの両頬をめがけてキスをした。
そして、遠慮がちに視線を泳がせながら、ふるふると唇を
噛み、どこか遠くを見つめる様にボンクレーの腕をきゅっと
掴んだ。

「あ、あの人は・・・一緒じゃ、」
「何言ってんのよう、」

ボンクレーはフィオナに耳打ちをするように腕を回すと
周囲を気にする様に首を大きく横に振った。

「あの人が、ヴェガスを離れられるわけなーいじゃないのよう!
 アンタが一番よく分かってるじゃないのっ。」
「そう、だよね、うん・・・ごめん。」

フィオナはボンクレーから一歩引くと、未だ殺気立っている
ゾロに心配ないと言わんばかりに笑ってみせた。
ゾロも答える様に刀から手を離し、眉をしかめたまま
ポッケに両手を突っ込んだ。

「さあ、フィオナ!帰るわよ!」
「え、いや・・・帰らないよ。」

「は?」

「だから、帰らない。」

笑顔のまま、フィオナはそう言い放つとゾロの腕を引き
車の方へ歩き出した。

「ちょ、え?いやいや、待ちなさいよ、フィオナー!」
「ボン、今日会えてよかった。私、しばらくはヴェガス
 には帰らないから。
 ・・・あの人によろしく言っておいて。」

「帰らないってドコに行くつもりよ!てかその男は何なの
 よう!あの人に連れ戻せって言われて来てるのよう!
 手ブラで帰ってあちしがどうなるかっ・・・て、
 フィオナ!フィーオーナー!」

叫ぶボンクレーに目もくれず、フィオナはキャデラックに
乗り込むと、シートに深く沈み込んだ。
そんなやり取りに、ゾロは目を丸くしたままワイパーに
挟まれた駐車禁止のキップを丸め投げ、追いかけてくる
恐ろしいオカマを好奇の目でみていた。

「待てこらァ!!」

それが本性であろう野太い怒声を上げたボンクレーは車にしがみ
つくと、車が揺れるほどに車体を揺すりながら泣き叫んだ。

「アンタが居なくなってから、あの人荒れてんのよ!
 お願いだから帰ろ、早く帰ろ、アーもう!」
「そういうところがムカつくの!帰って来て欲しいんなら
 自分で迎えに来いって!」
「だーかーら!そんなコト出来るわけないでしょ!!
 あの人は・・・忙しいの!ワケわかんない事言ってないで
 さっさと車降りなさい!飛行機もう出ちゃう!あと10分!
 フィオナ!お願いだから!」
「ボン、あんただって無理にあの場所にいることはない、
 そうやって無理に私の友達やらされなくたっていい。
 ・・・あの人は、私の為になんて動かない。」
「だーかーらぁ!あの人は・・・い、忙しいの!」

「大将が本丸を空けりゃ、城は喉元に刃を突き立てられ
 てるようなもんってことだ、なあオカマ。」

突如口を挟んだゾロは、不敵に口角を上げ意味深な視線を
ボンクレーに向けた。
その様子に、ボンクレーもまた雄々しい喉仏を上下させ
頷いた。

「悪いが時間がねェ、それにお前にはオレから話がある。
 そのまま引きずられたくないなら乗れ。」

ゾロはエンジンをかけると回りを威圧するように少し
アクセルを空踏した。

フィオナも思いもよらぬゾロの発言に顔をしかめるも、
それを隠すようにサングラスをかけ地図を開いた。


「フィオナ、どっちだ。」

「右。」

渋々と言った様子で後部座席に乗り込むボンクレーを
ルームミラーで確認したゾロはアクセルを踏み込み、
ジャンボ機の轟音の鳴り響くメンフィス国際空港を後に
した。









 




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