The Menphis02



「わぁー、悪趣味。」
「口を慎め、小娘。」

エルビスの邸宅に足を踏み入れた二人は、ロックンロールの王の邸宅といえば
それ相応しい、豪華な家具の並ぶ内部を人の波にもまれながら進んでいた。


「見ろ!エルビスのステージ衣装だ!」
「何このヒラヒラ・・・。おじさん、こんなの好きなの?」
「ああ!大好きだ!」
「えー・・・でも、似合いそう。」

知りたいことはこんな事じゃない、そう頭の中では叫んでみたものの
恐ろしい輝きを放つミホークの眼差しに、何かを言い出すのは申し訳ない様な気がして
フィオナはほとんど黙って、ミホークに付いて回った。

邸宅内の順路を終え、息苦しい邸宅を出た先には広々とした庭があった。
一層目を引く噴水の前に綺麗に整えられた芝の中、エルビスの墓石が横たわっていた。

その前まできたとき、ミホークはいつになく落ち着いた様子で深呼吸をした。

「77年に亡くなり、この墓が公開されたのが82年。それから毎年、此処へ来ている。」
「わざわざロシアから?」
「ロシアに帰ったのは、3年前だ。」
「なんで、帰ったの?」
「ちょっとした意見の食い違いだ、俺とドフラミンゴ・・・。覚えているか?俺を。」

「またそれ・・・みんなそうやって私に、覚えてるか・・・って。」

ため息と一緒に顔をしかめたフィオナを覗き込むミホークはフィオナの髪を
優しく撫でた。

「ジンベイ、ハンコック、モリア、クロコダイル・・・あともう一人いたな。
それぞれ、意見が違った。」
「意味わかんない、分かるように・・・説明して。なんで私が関係あるの?」
「知れば一層苦しむことになるかも、知れないな。」
「何を苦しむって言うの?何も覚えてないのよ!」
「知りたいということは、何か思い出した・・・そうだろ。」

見透かすかのようなミホークの物言いに、いい知れぬ怒りが込み上げた、
その勢いのまま、ミホークに平手打ちを喰らわせようと大きく振りかぶるも
脚に力が入らず、フィオナはその場に倒れた。

「フィオナ、ゾロは好きか。」
「何よ、いきなり。」


ミホークはフィオナに手を差し伸べ引き起こすと、また腕を組んで不敵な笑みを見せた。


「あれはなかなか見込みがある、ゾロに付いて行くといい。」
「・・・説明になってない!!」


ふう、とため息をついたミホークはエルビスの墓を見つめ
小さく何かを呟き、踵を返し歩き出した。

「どうして脚が痛むか教えてやろう。」

脚を引きずるように横を歩くフィオナを見やりながら、ミホークは腕を取り
フィオナを支えた。

「脚は、元々良くないの。」
「知ってる。」
「・・・何でよ。」
「それは、お前の脚ではないからだ。海に入っただろう?」
「・・・ロスでね。少しだけ。」
「元々、お前に脚などなかった。それは付けられた脚だ。」

困惑を隠しきれないフィオナは口元を歪め、ミホークの言葉に聞き入った。

「二度と海へ帰らないように、ドフラミンゴの命により付けられた、偽物だ。」
「・・・意味が、わかんないよ。海に、帰る?」
「ああ、俺は直ぐに海へ帰すべきだと言った。」
「・・・ドフィは、」
「全てを投げうって、」
「私を引き取った。」


ぐっと口を結び、苦しそうな表情を浮かべるフィオナは
何かの冗談であって欲しいと願うも、頭に浮かぶ情景が真実だと叫んでいるような気がした。

広大なアメリカを、今来たルートを逆走する景色を、本当は覚えていた。

「フィオナ、帰るべき場所に帰れ。帰りたい場所に・・・お前は帰るべきだ。」
「私の、帰るべき場所・・・。」









「意見は食い違えど、誰もお前を傷つけようとは思っていなかった。
もう過去のことはいい、これからのことが重要だ、違うか?」
「そう・・・ですね。」
「ほお、やけに大人しくなったな・・・もうしばらくお前たちに同行するとしよう。」
「・・・あのっ!どうしてドフィは私を引き取ったの?」
「嫌気がさしたのさ、この世界に、この国に、歩まされ踊らされ、道化のように生きるのに。」
「でも、失ったものの方が多いでしょ、どうしてそこまでして・・・」
「昔から何を考えている・・・の・・・か、」

急に声を潜め始めたミホークはゲートを潜ったところで目を見開き、フィオナを盾にするように
身を隠そうとし始めた。

「え?どうしたの?」
「殺されるっ!!」

フィオナの視線の先には、道路向かいのベンチから立ち上がったゾロが見えた。
小さく手をふると、こちらに振り返してくる。


「殺されるって・・・何?」
「も・・・も・・・・も・・・もももも・・・・。」
「何言ってんの?」

「そうよ、何を言っているのミホーク。」

フィオナは聞き覚えの無い声に振り返ると、そこにはいつのまにか目の前に
迫っていた少女の姿があった。

「帰ってこないと思ったら、またこんなところで遊び惚けて・・・。
忘れたわけじゃないでしょうね、私にした仕打ちを・・・、ねえミホーク。」
「ご・・・ごめんなさい。」

追いかけてくるように駆け寄って来たゾロは、奇妙な光景に眉をしかめ腰に手を当てた。

「お前が待ってたのって・・・このオッサンか?」
「そうよ。」

「ご・・・ごめんなさい。」


ミホークは未だフィオナの背に顔を隠したまま、力なく謝罪の言葉を並べるばかりで
フィオナとゾロは顔を見合わせて首をかしげるしかなかった。



「さあ、お友達にお別れ言いなさい。帰るわよ、じゃなきゃ引き裂くわよ。」
「あの・・・ほんと、ごめんなさい。」

「オッサン、誰なの?この女の子。」

そっとミホークを引き剥がしたフィオナは宥めるように問いかけた。


「・・・妻だ。」


「「はぁっ!?」」


思えばこの旅は奇妙なことばかりだった。
ゾロは、ジャンキーを拾い、150万ドルの仕事を仰せつかり、行く先々ではち会う、よく似たコックにどこか頭を痛め、
オッサンを運び、旧友のフィアンセに車を盗まれ、燃やされ、空から降ってくるキャデラックを手に入れ、気分よく酔いながら
此処へ至り、
フィオナは抜け出すことのできなかったヴェガスを脱出し、初めて海を見て、初めて会ったはずの人物に
さも過去に会ったことがあるかのような口ぶりで話され、とんでもない距離を歩き、改造人間たちのギプシーキャンプと出会い
此処へ至った。

いちいち引いていたらきりがなかった。

だが、今。

目の前の幼女を嫁だと言い放つ、無駄にダンディーなオッサンには
そうはいかなかった。

大げさではなく10歩ほど、おのおの後ずさりした。


「変態。」
「・・・ペドフィリア。」

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