The Menphis





テキサス、アーカンソーの州境を越える頃
差しかかった左手の街の光に、ヴェガスの懐かしさを感じながら
フィオナはひたすらにハンドルを握りしめた。

酔っぱらい二人の寝息をBGMに、変わりゆく景色を
感じながら、メンフィスを目指す。



「人生とは、幸福への努力である。」

気配もなくミホークは起きていたようで、静かな声でフィオナの耳元に囁いた。

「え、何?」
「故郷の思想家の言葉だ。」
「そう、・・・ゾロはまだ寝てるの?」
「ああ、まるでガキの様だ。」

ミホークはそう言うと、フロントのウィンドウを掴んで
助手席に乗り込んできた。
改まるようにフィオナを凝視する彼の様に、フィオナは不快感を覚えた。

「何ですか?」
「憂いている、お前が背負わされた残酷な運命を。」
「・・・。」

口ひげの上下から放たれる言葉の全てが、フィオナには理解できず、
特に酔っている様子でもない彼に不信感を視線だけで伝える。

「彼なりの幸福への努力だ、分かってやって欲しい。。」
「・・・ゾロ?」
「いや、ドフラミンゴだ。」


唐突に二人の間を伝うその人の名は、フィオナの表情を幾分か硬直させた。


「恨んでいるか?彼を。」

ミホークの問いかけに、フィオナは答えることができなかった。

「わかんない。」
「そう、か。」


眩しい朝日が見え始めた頃に、メンフィスのまで20マイルの看板が
横を通り過ぎた。
10時間以上のロングドライブにやっと息をつけるようになったフィオナは
疲れきった右足でブレーキをかけると、フリーウェイを降り、スピードを緩めた。


「あの川を越えたらメンフィスよ。」
「そうか!すばらしい!!」

ミホークの期待に弾むような声に、ゾロはムクリと起き上がると大きなあくびをした。


「・・・ぁあ、どこだここは。」
「3,2,1, テネシー!!」

フィオナのテンションの高いカウントダウンと共に、キャデラックは川を渡り
メンフィスに入った。


「ぁあ、うるせェー・・・で、どこだ?」
「テネシー州だってば!!」
「ん、そうか・・・。メンフィスまではどのくらいだ。」
「もうメンフィス!」



酒の抜けきらないゾロは、いつにも増して土地勘や方向感覚を失っていた。
途中フィオナが買った地図を開き、唸っては回りを見渡し、頭を抱えるだけだった。


「少し休まんか、疲れたであろう、フィオナ。」

ミホークの気遣いには、ある種の気味悪さがありフィオナは大きく首を横に振った。

「メンフィスのどこに行ったらいいの?なんか、いろんなところにエルビスの
看板が見えるけど。」
「では・・・グレイスランドへ。」

エルビスファンの聖地、グレイスランドまでは橋を渡ってから10分もしない場所。
日曜日ということもあり、午前の町中は人でごったがえしていた。

エルビスが晩年を過ごし、亡くなった地でもあり
目的地に近づくにつれて、それらの人々が同じ目的に向かっているは明らかだった。

フィオナが付近に車を寄せると、歩道を歩くあからさまなエルビスファンたちが
ピューっと口笛を鳴らした。

「キャデラックだ!!」

口々にそう言いながら通り過ぎる人の数、数知れず。
フィオナはその視線に上乗せするように怪訝な表情を浮かべ、車を降りた。

「さて、行くとするか。」
「・・・ゾロは?」

目的地に到着したというのに、未だ地図を見ながらうなり声を上げていたゾロは
パっと顔を上げた。

「あ、なんでお前も行くんだよ。」
「え?なんで?」
「オッサン降ろしたら仕事は終いだろーがよ。」

それもそうだとフィオナは口をぽっかり開けていたが、その行動に繋がった心理には
心当たりがあり、急いで口を閉じた。

「だって、楽しそうじゃん。行こうよ。」

不審そうな顔のゾロは顎をさすりながら、じっとミホークの姿を見つめた。

「じゃあ、・・・行って来いよ。オレはここに残る。また車を盗まれちゃたまんねーからな。」


少し安堵の笑顔を浮かべ、ゾロに背を向けたフィオナはずいずいと進んで行くミホークを追いながら
沸々と喉元に上ってくる気持ちを押さえた。


知りたい


思えば思う程に、今まで感じたことのない恐怖心に襲われる気がした。



相変わらず人通りの多い道に停められたオープンカーでは、寝ようにも何をしようにも
それは目立ち過ぎ以外の何ものでもなかった。
ゾロは好奇の目に晒されているのが、車であるとは分かっているものの
居たたまれなくなり、車がよく見える道路向かいのベンチに移動していた。

3人くらいは裕に座れるベンチに腰掛け、もう一眠りしようかという
その時、身長が自分の半分程しかない少女がちょこんと横に座った。

大人げなく大きく舌打ちしたゾロをふと見た少女は、ぎろりとそれを睨むと
ぷいっとまた前を向いた。

親とはぐれたのだろうか、不安げ・・・というよりは不機嫌そうだった。
身なりの整えられた風貌からも、裕福な家庭の子供にみえた。

互いに目も合わせずに、時間が過ぎて行く。

親が迎えに来る様子も無く、ゾロはゴホっと咳払いをして少女に話しかけた。

「おぅ・・・迷子か?」
「あんたは?」
「俺ぁ、人待ちだ。」
「私も。」
「・・・迷子じゃねェか。」
「あんたと一緒にしないで。」

やたらと生意気な口を聞く少女に、グッと拳を握ったものの
人通りが多いということも助かって、怒りはすぐに治められた。

「一緒に探してやろうか?」
「いいの、あそこから出てくるって・・・分かってるから。」
「ああ、そうか。」

エルビスプレスリーの邸宅の出入り口を凝視する少女は、ゾロに顔も向けない。

ちらりとその表情を覗き込めば、やはりその表情には怒りや不機嫌さが
黒々と立ち籠めていて、ゾロはまるで不思議な生物を見ているような気がした。

普通、子供ならあっちだろうと、右に停まるアイスクリームトラックに目をやったが
やはりその少女は視線を逸らすことはない。

ため息をついたゾロは、むりやりに笑顔を作りながら語りかけた。

「お嬢ちゃん、名前は?」
「お嬢ちゃん?バカにしないで、それに名前を聞くならアンタが先に名乗りなさい。
失礼なヤローね、親の顔が見てみたいわ。」
憎まれ口が休む間もなく放たれる。ゾロは全弾を心臓に受け止めたような
心の痛みに耐えながら、笑顔を崩さぬよう努力した。

「俺はゾロ。ロロノア・ゾロだ。」
「私はモカ。」
「カワイイ名前じゃねェか。よろしくな。」
「変態なの?その気色悪いニヤケ顔止めてくれる?」

最後の大砲はゾロの心臓をひき肉にする程のダメージを与え、ゾロはガクリと肩を落とした。

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